波乱万丈の歴史を刻むかつての鉱山跡。小串鉱山をめぐる旅
名水を探る旅
松川渓谷の雄大な自然と豊富な湯量を誇る温泉が点在する高山村。こんな自然環境豊かな場所に旨い湧水がないわかないだろう・・・と連日の暑さの中「配達
中のめる場所がないのかな」と思い続けていました。というのも去年担当していた小布施町には配達先の浄光寺庭
先にとても旨い清水(霊泉とも
言われて多くの人が水汲みに来る)があって、夏は毎週有難く飲ませてもらっていたし、周辺の木島平村には内山の名水と
いう豊富な湧水もあるし、どっかにあるはずだ。そう思って配送中、あれこれ聞いてみるけれども、地元の人でも「どこかにあるだろう」という反応で雷滝の近
くに少
し出ているとか、村内の酒屋が以前使っていた湧水を店まで引いているという話は出てきても中々知っていると言う話が出てきません。ようやく「小串鉱山の近
く
に湧水がある」という情報をキャッチ。小串鉱山?聞けば万座温泉近くだとか。「そんな遠くかい!」まあ、そこまで行けば名水もあるかもしれない。配達中の
話のネタにもなるし。時期はまだ9月初旬。「夏でも涼しい」という言葉に惹かれて、
まずは鉱山近くの名水に行ってみようか、ということになったわけです。
まずはどんな道か山田温泉の配送を終えたあとちょっと行って見ようと配送トラックで途中まで登ってみること20分ほど。次第に勾配はきつくなり、行き違い
の出来ない一本道。水温計がどんどん上がってオーバーヒート寸前となったところで展望台があったのでそこでクールダウン。引き返しました。その週の土曜日
に用事があって須坂まで通院したついでに、ちょっと行って見ようかと高山村へ。山田温泉に向かい、万座温泉との分岐点を右折して走ること十数キロ。標高は
2000m近く、ガスも出て視界は悪い中、万座温泉と小串方面でさらに分岐。右折をして数百メートル走った左側に2本のパイプから湧水が(写真はトップ
ページのギャラリー「9月11日牧の清水から小串鉱山」を参照)。壊れかけのプラスチックコップがなければ湧水とは思えないほど出ている量はわずかなもの
でしたが、「遂に見つけた!(またネタが出来たぜ)」という満足感に浸りました。
かつての歴史に心惹かれる
その日はその道をしばらく進んだところの道沿いにある「くつろぎの滝」で写真を撮り、さらに毛無峠を越えて群馬県に入り、小串鉱山まで行ける!とはいう
ものの、雨がじきに降りそうな天候の上、体調も良くなかったのでその日はそこで引き返しました。家に帰ってインターネットで「小串鉱山」と検索すると結構
ヒット。荒れ果てた廃鉱山は格好の“廃墟系スポット”としてレアなマニア物件として広く知られた存在のようできれいな写真が載ったサイトをいくつも発見。
もともと廃墟系には興味があった(以前勤務していた佐久センター近くにかつて精神病院があったのですが閉鎖され、しばらくするとそこが廃墟系の物件として
マニアに広く知られるようになり、本でも紹介されたことがきっかけ)上に、配送中にいろいろ組合員さんに聞いてみると廃坑になって鉱山を降りた人が高山村
の緑ヶ丘団地に移り住み、その団地のスーパーは組合の代表がやっていた人が経営していて(現在は他の人に経営を任せている)、地域の代表者として村議会議
員も長く務めていたという話や、団地周辺からも出稼ぎに多くの人が行っていたという話、あんな高地に従業員、家族、出稼ぎ者で2000人もの人が働いてい
た・・・などと言う話が次々に出てきてその歴史に俄然興味が出てきました。過酷な自然条件の中、遭難したり、家族が鉱山の事故で亡くなったなどという話
も。高山村の人にとっては周知の事実でも自分にとっては初めて聞くことばかり。その反面、かつて鉱山に住んでいた人も降りてから一度も行っていないという
人も多くいて、今の鉱山のことは知らないようで、じゃあ、自分で行って調べてやろう!ということで一念発起、鉱山への旅に出発と相成りました。
絶対徐行と落石注意の危険地
帯
当初は一人で行くつもりだったのが、小串の歴史や廃墟系に興味を持ったカズヒロ君も同行。先週よりは天候は良かったものの、小串方面に右折して群馬県境
に行くと天候は一変!そこの駐車場からは舗装されてない上、ガードレールもなく、勾配もきつく、へたをすればタイヤがパンクしかねない悪路。こんなところ
で立ち往生すれば誰も助けに来てくれないし、崖から転げ落ちればそのままお陀仏。はっきり言って目の悪い俺ではとても運転できないのでカズヒロ君にスイッ
チ。道沿いには「絶対徐行」の看板があり、落石にも充分な注意が必要。やっとの思いで駐車場に到着してそこからは徒歩。しばらく行くと地蔵堂があり、昭和
12年の地滑りによる犠牲者を追悼する慰霊碑と当時の鉱山の施設を紹介する稗も建っています。
慰霊塔の風景
慰霊塔は98年に当時の関係者の浄財によって地蔵堂が改築された際に建てられたようで、協力した人の名前が刻まれた石碑もありました。近くにはかつての
変電所もあって、その朽ち果てた雰囲気と周囲のガスが廃墟の雰囲気を高めていて、思わずシャッターを。好きだな。この雰囲気。何か出そう・・・悪いけど
“心霊系”って信じないんだ。怖いのは霊じゃなくて人。こんなところで物取りが出るわけないから、平気平気。もっと雰囲気を楽しみ、さらに奥に行きたかっ
たけれども、帰途が心配だし、カズヒロ君は早く万座温泉に行って温まりたいわけで、そこから少し歩いて地滑り現場(今は何もない)を探索してUターン。無
事、県境に戻ってホッと一息。極度の緊張感と悪路の振動でカズヒロ君は翌週、腰痛が
再発。しばらくは後遺症に苦しんでおりました。諦め切れずに翌週、もう一度一人で行き、今度は徒歩で行ったものの、めまぐるしく変わる天候
と前日の雨で地盤が緩み、硫黄の土に足をとられて鉱山を目前に引き返しました。ま、鉄塔の写真や鉱山の全景もたくさん撮れたし、仕方ないかな。
そして小串は
この小串鉱山に行ったことは担当者ニュースでも5回に分けて連載して、ずいぶん反響がありました。小串鉱山は高山村をはじめ、周囲の市町村と交流が広く
行われていただけに、知っている人も多いし、鉱山にいた人にとっても30数年という歳月は歴史となるには早すぎ、当事者の多くはまだまだ健在。その反面、
かつての歴史や、現在どうなっているかは知らない人がほとんど。そういうこともあって面白く読んでもらえたんだと思っています。ネット上で小串鉱山につい
て調べられるものは参考サイトとして以下に紹介しましたが、時間があれば当時の記録を調べて担当者ニュースやこのサイトで追加報告が出来れば・・・と思っ
ています。残念ながら今の時点で長野県の鉱山についてまとまった記述のある本を見つけることが出来ていません。関係者の聞き取りをして自分で本でも出せれ
ばなあ・・・そんな力量も時間もないのが残念ですけどね(誰かやってくれませんか)。
参考サイト:廃校の桜 小串鉱山
についての歴史の解説があります。ずいぶん参考にさせてもらいました。
小串鉱山跡 39枚の
きれいな写真が公開されています。今の鉱山の光景を知りたい人は必見!
群馬県小串鉱山
撮りたかったのはこういう写真!
硫黄
長野の大地の見どころ100選の一つとして長野県の硫黄鉱山について解説しています。
参考文献: 小林伸一郎『廃墟漂流』(マガジンハウス、2001.9)廃墟の写真集。P.178〜9に小串鉱山の写真があります。