□ 95_before "August" @the 2nd year □


「なんで…泣いてるの?」
 静かに頬をなでられて託弥にそう言われるまで、自分が涙を流してることに気付かなかった。
「…泣いてねえし。」
 呟いた声が微かに震えてしまって、俺は息を飲み込んだ。
「…そうだな。」
「泣くわけねえだろ、俺が。」
「うん。」
 託弥は手のひらで俺の頬を包んだまま、額に唇で触れた。
 その温かい腕の中で何度も登り詰めてどろどろに融けて混ざり合って、だけどやっぱり俺と託弥は別の人間で、こうしてふたりでいるのも何かの偶然に過ぎなくて。
 だからもしかしたらこれは全部都合のいい夢で、シャボン玉みたいにいつかパチンと弾けてしまうのかもしれなくて。
「…なあ、」
 託弥の手に自分の手を重ねる。そのまま顔を上げて唇をねだると、託弥は小さく微笑って応えてくれた。
 指先は首筋を滑り落ち、鎖骨をなぞっていく。宝物を慈しむように、静かに柔らかく、俺の肩を抱く。
 なあ、託弥。
 テメーが俺を泣かせてるんだよ。俺に優しくするから。俺を大事にするから。
 こんなに怖くて苦しくて、なのに満たされて、俺はどうすればいい?





to be continue…

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