■ NIGHT WAVE ■ (2)



「おつかれぇ〜。」
 撮影を完了させ、その後何の予定もなかった十夜と愁斗は、十夜の家で軽く呑むことにした。
 AVの男優というと、世間は派手な私生活を想像するかもしれないが、十夜のマンションは郊外の古い住宅地に建つ、平凡な部屋だった。
 コンビニで缶ビールとつまみを買ってきて、男ふたりの簡素な打ち上げだ。
 十夜は缶ビールを一気に半分くらいあおると、ぷはぁ、と息を吐いた。
「どうだった?今日の女優。」
 ポテトチップの袋をばりばりと開けながら、十夜は愁斗に言い向けた。
「俺、あーいう女ってちょっと苦手〜。」
「あー、そんな感じですよねぇ。」
 愁斗はちびちびと缶ビールを呑みながらうなづいた。
 十夜と愁斗は元々コンビで仕事をしていた訳ではない。
 十夜はデビューして5年、主に企画ものの作品に出演していた。顔の造作はそこそこ整っているが、本人は無頓着で、いわゆる汁男優としても活動している。
 対して、愁斗は芸歴は2年だが、ワイルド系な風貌が受けて、主に女性が視聴するための、イメージビデオ風AVに相手役として出演することが多い。
 それが、今回の撮影をしたディレクターの以前の作品でたまたま共演して以来、なぜかそのコンビぶりが話題になり、以来ちょくちょく共演するようになっていた。
 オフで会うことはないが、今回のように撮影終わりに一緒に呑んだりすることもあり、お互い気心の知れた仲と言える。
「でも、十夜さんって、多分、キスが上手いんですよね。」
 ポテトチップを矢継ぎ早に口に放り込んでいる十夜をじっと見ながら愁斗は言った。
「女優がすぐぼうっとなっちまうの、あれ、まんざら演技じゃねえと思う。」
「そう言うおまえのキスって、噛み付いてるみたいだもんな。」
 くすくす笑って十夜も言った。
「ま、あーいうワイルドなのがすきな奴もいるしな。けどあれ、マジでワイルド過ぎだから。ほぼ野獣だからな。」
「でも、だから、俺たちセットで使ってもらえるんだから。」
 確かに、コンビでの仕事は以前より増えてきている。それがイヤというよりむしろ楽しくなってきている十夜でもあった。
 こいつ、見た目こんなんだけど、優しくていい奴なんだよな。十夜は愁斗をじっと見つめた。それに気付いて、愁斗は缶ビールを持った手を下ろした。
「…なんすか。」
「んー?べつにぃ?たださぁ…」
 だから、ふと頭をもたげた悪戯心に従ってみよう、と十夜は思った。
「なあ、試してみる?」
「は?何を?」
「俺のキス。」
 ぽかーんと目を見開いている愁斗に、十夜は面白いおもちゃを見付けたかのように胸が躍るのを感じた。
「後学のために。」
「いや、おかしいだろ、ちょっ…」
 うろたえる愁斗をいたぶりたい気も湧いてくる。理由もない高揚が十夜を支配した。
 まだいまいち状況を把握しきれていない愁斗の座るソファに十夜は圧し掛かり、背もたれに愁斗の肩を押し付ける。さらには額を手のひらでしっかり押さえつけ、その目をのぞき込んだ。
 愁斗は愁斗で、うろたえてはいるものの、これは個人的な体験というより、仕事の練習だと思えば、頭の中のスイッチは切り替わり、十夜を受け入れるのに抵抗もなくなるのだった。
 十夜は、そんな愁斗の心情を読んだのか、
「目くらい閉じろよ。」
口元をニヤリと歪ませた。
「後学のため、っつってんなら、ちゃんと見とかなきゃでしょ。」
 愁斗が言い終わらないうちに、十夜は愁斗の口唇に自分のそれを押し当てた。初めは柔らかく、舌先でなぞったりくすぐったりして、徐々に口唇を開かせる。そしてそのまま、歯列を撫で、と思うと今度は上顎を弄り始めた。
「…ん…」
 思わず声を漏らした愁斗に、口唇を付けたまま十夜は訊く。
「キモチいい?」
 さらには舌を絡め取り、吸ったり舐めたり、また口唇に戻ってねっとりと舐めまわしたりして、愁斗を翻弄した。
 でも次の瞬間、それまでされるがままだった愁斗が突然、十夜の腕を取り、力づくでソファに組み敷いた。
「え…?なに?」
 今度は十夜がぽかーんとする番だった。そんな十夜の腿に馬乗りになって、愁斗は苦しそうにつぶやいた。
「エロいキスしやがって…」
「えー、だから、仕事の実演じゃん…」
「勃っちまったんですよ…っ」
 ふぁぁ?十夜の口から空気が抜けたような声が漏れた。
「うっそ…マジかよ…」
「どーにかしてくださいよ、これ。」
「どーにかったって、おまえ…」
 口ごもる十夜を上から横柄に見下ろすと、愁斗はそこから覆い被さるように身体を重ね、お互いの下半身を密着させた。
 一瞬身を固くした十夜も、すぐ愁斗の腰に腕を回し、自分の方に引き寄せる。
「おまえ、男同士でもいけんの?」
「…どこまでのこと言って…」
「俺のケツに突っ込みたいの?」
 十夜の言葉に、愁斗はうぅ〜〜〜ん、とうなり声を上げた。
「そう、冷静に考えると、なんか違う気もする…」
「んじゃ、取りあえず抜いとく?」
「なんで俺が一方的に…」
 得心のいかない顔で愁斗は十夜を睨んだ。
「だって、勃ってんのおまえだし。」
 十夜は少し身体をずらすと、愁斗のジーンズに手を伸ばした。
「あーあー、これじゃちんこ痛いだろ。」
 ウェストを緩め、ファスナーを下ろし、下着から硬くなった性器を取り出す。
 勃起した他人の性器なんて普通はほとんど見る機会などないのだろうが、何度も仕事の現場で見てきている十夜にはまったく気にならなかった。
 むしろ、仕事のとき愁斗が見せる、達したときの表情を思い出して、十夜も興奮を覚えた。
 愁斗が腕立て伏せのような体勢でいる、その下をくぐって、十夜は愁斗の熱くなった性器に顔を寄せた。そして躊躇なくそれを口に含む。
「あっ…は…ぁ…」
 愁斗のこぼす吐息のような声に、十夜のボルテージも上がっていく。
 自分がされてキモチいい場所…先端をくるくると舐めまわし、ぱくっと口を開けた出口に舌先を差し入れた。手は絶妙な力加減で竿の部分を擦っている。
 舌先はさらに先端からのくびれた部分、裏側の筋、竿の根元と忙しなく動き続け、遂にはその全体が十夜の口の中に含まれた。
「…っ…とおや…さ…」
 快楽に蕩けた愁斗の声。それを確かめるかにように、十夜はゆっくり口を上下させ始める。ゆっくり…でも竿に舌を絡めて撫でまわすように。
 こいつのコレ、今日、女の中に入ってたんだよなあ。ぼんやりとそんなことを考えていると、何故か、女よりも自分のフェラテクの方がいいと言わせたくなってきて、十夜はさらに執拗に舌を動かし続けた。
 愁斗はもう、自分の身体を腕だけで支えることはできず、ソファに肘と膝を突いて腰をゆらゆらと上下させ始めている。十夜は、そんな愁斗の身体の下から腕を伸ばして、その腰を自分の方へさらに引き寄せた。そして、尻の割れ目の先を親指で強く押し擦った。柔らかな袋も後ろから揉みたてる。
「…ヤバいって…も…出る…っ!」
 愁斗が小さく叫んだのと同時に、十夜は口を外し、手で竿を強く扱いた。その瞬間、愁斗は小さく身震いして、十夜の顔に射精した。
「…っ…あぁ…キモチいい…」
 恍惚とした表情でつぶやく愁斗とは対照的に、憮然とした顔で十夜は愁斗の身体の下から這い出した。
「…おい…」
 その声にハッと我に返った愁斗は、十夜を振り返って絶句した。自分の放ったもので、十夜の顔も髪もどろどろになっている。
「てっめ…顔射はねえだろ…」
「すっすみません!」
 愁斗は慌てて周囲を見回すと、テーブルの脇に置いてあった箱ティッシュをひっ掴んで十夜に差し出した。
「でも、十夜さんも離れなかったじゃないすか…」
 自分もティッシュを使いながら、愁斗は十夜の顔を見た。十夜は十夜で、大量のティッシュを引き抜いて、顔や髪を拭いている。
「イく寸前で身体ずらすとかできんだろ。」
 あー髪に付いたの取れねえっ。ぶつぶつ言いながら、十夜は愁斗を睨んだ。
「だって…すっげえキモチよくて…あんなの初めてだったから…」
「なんだその純情ぶった女みてえな言い草…」
 でも、口を尖らせて十夜を見ながら下着を穿き直す愁斗の姿に、十夜は思わず吹き出しそうになった。
「でも、これで分かった。」
 ティッシュを丸めてゴミ箱に放り込みながら、十夜は言った。そのまま、テーブルに放置してあった缶ビールを手に取り、口内を潤す。
「おまえ、男相手でもいけるんじゃね?」
「え?」
「仕事だよ。タチじゃなくてネコの方で。」
 十夜の言葉に、愁斗は口をあんぐり開けて呆けている。その姿に、十夜はまた口元だけでニヤッと笑った。
「え…?いや…俺みたいのなんか、ゲイビでは需要ないでしょ。それに…」
 愁斗は口をぱくぱくさせながら言った。
「今のは、相手が十夜さんだったからできたんだと思うけど…」
「ふーん。そんならさ、またしてほしい?」
 顎を上げて、愁斗を下に見て、十夜は不敵に笑った。その顔に何故か跳ね上がった鼓動を抑えるように、愁斗は自分のTシャツの胸元を握り込んだ。
「…お願いします。」
 小さく頭を下げると、十夜は満足そうな笑みで、
「ハイ。お願いされます。」
と返した。


■了■


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