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初公開:残されたメロディー(黛敏郎採譜)
1996年2月20日、武満徹は65歳で忽然とこの世を去った。世界中が彼の死を惜しんだ。
お別れの会の折、作曲家の黛敏郎は、かつて武満が作曲したという、自らの胸の中にだけしまっていた美しいメロディーを口ずさんた。
「私たちが若かった頃、私は貴方に映画音楽のアシスタントをお願いしたことがありましたね。貴方はいつも快く引き受けてやってくれたけれど、時として困った事もありました。貴方が私の代りに書いてくれる音楽が、貴方は一生懸命、私のスタイルに近く書いてくれるのだけれど、あまりに素晴らしく、私の書きとばした曲と同じ映画の中に並ぶと、どうしても違和感が生じてしまうのです。それ程に貴方の音楽はその頃から個性的でした。
今でもそうした音楽の一つで私の忘れられない一節があります。
それはあるメロドラマ映画の悲恋シーンにつけられたBG音楽なのですが、余りに素晴らしいので映画に使うのが勿体なくて、ひそかに私が使わずとっておいたものです。私はあらゆる音楽を通じてこれほど悲しい音楽を知りません。いうならば悲しみの表現の極致といえるでしょう。貴方と私しか知らないこのメロディーを、いま霊前に捧げて、私たちの若き日の共通の思い出を偲び、ご冥福を祈らせてください。」
(黛敏郎 弔辞より)