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令和元年度 研究概要 (第3部門)

R1-3-1
題  目 樹木細根滲出物の炭素量の多樹種比較
研究者 暁 麻衣子
概  要 植物は根から有機化合物を滲出することで、土壌微生物を集めたり、他植物の成長を阻害したりすることで土壌環境に影響を与える。本研究では菌共生タイプ・系統学種の異なる8樹種を対象として、炭素滲出物の樹種間差を根形態・化学特性から特徴づけることを目的とした。調査は長野県信州大学付属手良沢山演習林で行い、裸子植物で外生菌根種のアカマツとカラマツ、裸子植物で内生菌根種のスギとヒノキ、被子―外生のクリとコナラ、被子―内生のホオノキとクルミの成木の細根系を対象とし、根由来の炭素の滲出速度を算出した。滲出速度には樹種間差が認められ、被子―内生、被子―外生、裸子―内生、裸子―外生の順に高かった。被子植物は裸子植物よりも高かったが、菌共生タイプ間では差が認められなかった。細長く分岐の多い根をもつ被子植物と、太い根をもつ裸子植物で傾向が分かれたことから、滲出速度の樹種間差は根の形態と関連する可能性がある。
R1-3-2
題  目 太陽熱や地熱などの未利用熱の有効利用を想定した高性能蓄熱材に関する研究
研究者 阿部 駿佑
概  要 工場排熱や地熱などの未利用熱を有効活用するための新しい熱媒体として、液中に多量の潜熱を有する潜熱蓄熱物質を分散させた固液二相流(スラリー)の熱媒体を提案する。スラリーを用いることで、顕熱に加え相変化時の潜熱の授受により伝熱性能の向上が見込めるが、一方で熱負荷による伝熱面での結晶の発生が予想される。この発生した結晶は熱伝達の悪化の原因となるため、適切な作動条件の決定や結晶の付着抑制方法の開発には、伝熱面での結晶の発生様相や結晶の熱交換性能への影響について検討する必要がある。実験は銅製の熱交換器を作成し、銅管内を流れる水により蓄熱されたスラリーから熱交換器を介して熱を回収する実験を行った。検討の結果より、スラリーと水の温度差、熱通過率および伝熱面への結晶の付着量の関係を明らかにした。また撹拌により伝熱面での結晶の成長が不均一になることで、結晶の付着面積の増大が抑制されることを確認した。
R1-3-3
題  目 筋形成型オリゴDNAによる多能性幹細胞の心筋分化誘導機構の解析
研究者 石岡 美奈
概  要 近年、幹細胞を用いた再生医療に関する研究が注目されている。我々は最近、筋分化を強力に促進するオリゴDNA「myoDN」を同定し、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞において、myoDNが心筋分化を誘導することを見出した。本研究では、myoDNを投与したマウスES細胞における遺伝子発現量を解析した。分化誘導5日目からmyoDNを投与した群では、Nkx2-5をはじめとする心筋関連遺伝子の発現が対照群と比較して上昇した。一方、分化早期のES細胞にmyoDNを投与すると、心筋および中胚葉関連遺伝子の発現量が減少した。すなわち、myoDNは中胚葉形成の時期には心筋分化を抑制し、中胚葉後期の細胞に対しては心筋分化を促進することが分かった。本研究で得られた知見は、再生医療や創薬スクリーニングに用いる心筋細胞を簡便かつ安全に作出する分子として、myoDNを応用していくための基盤になると考えられる。
R1-3-4
題  目 クェーサから噴出するアウトフローガスのジオメトリ構造の解明
研究者 伊東 大輔
概  要 宇宙で最大規模の活動現象を示す銀河中心核の種「クェーサー」から放出されるガス流「アウトフロー」は銀河本体や銀河外部の宇宙空間の成長に大きな影響を与えると考えらており、銀河進化や宇宙の進化史を解明するうえで重要である。しかしアウトフローの唯の観測方法はクェーサーを分光観測した際に検出される吸収線のみとなっており、詳しい構造や分布などは不明である。クェーサーからアウトフローまでの距離を知ることができれば起源や構造解明の大きな手がかりになる。本研究では微細構造吸収線と呼ばれる特殊なエネルギー状態にあるイオンが作る吸収線を用いて4つのアウトフロー吸収線の距離の概算を試みた。結果、いずれの吸収線もアウトフローの典型的な分布に比べ1-100万倍も遠方に位置するという結果を得た。また、未解明であった幅の狭い吸収線として特徴付けられる種類のアウトフローの起源についても推定することに成功した。
R1-3-5
題  目 紫外線蛍光を用いたチョウ蛹の群集調査
研究者 井上 太貴
概  要 蝶成虫の群集に関する研究は進んでいるが、幼虫・蛹ステージでの研究は少ない。成虫に比べ、移動が少なく多くの種では保護色を持つため、発見が困難なことが原因である。そこで、蛹・幼虫を夜間に紫外線蛍光で発見する手法の開発を試みた。一部の蝶類の蛹が紫外線照射に対して蛍光を発することは以前から知られていた。これが野外観察に利用できるかを検討するため、(1)どのような種の蛹が蛍光を発するのか、(2)夜間の紫外線蛍光による探索は昼間の目視による探索よりも発見効率が良いか、を調査した。(1)4科20種の蝶類蛹を紫外線照射下の暗室で撮影したところ、4科8種で紫外線蛍光が観察された。(2)昼と夜に草原を歩行した時の発見効率では、紫外線蛍光を利用した夜の探索で効率が良い傾向が見られた。よって、紫外線蛍光を利用したこの手法は、蝶の生息地を評価する際、発生地となっているかどうかを区別することに利用できるだろう。
R1-3-6
題  目 グルタミン酸貯蔵システムを利用した骨格筋機能維持機構の理解
研究者 内山 茉南
概  要 【研究の動機】遅筋に貯蔵されているグルタミン酸が代謝産物等の処理作用を発揮することで細胞維持に貢献する仕組み(グルタミン酸貯蔵システム)の存在を明らかにし、遅筋で発現が少ないグルタミン酸ピルビン酸転移酵素(GPT2)との関係を調べることを目的とし本研究を実施した。 【方法】野生型マウスとPGC-1αトランスジェニックマウスを用いて、24時間の絶食に対するGpt2遺伝子やタンパク質分解関連因子の発現応答性を前脛骨筋(速筋)とヒラメ筋(遅筋)で比較した。 【成果】タンパク質分解関連因子の遺伝子発現は、野生型マウスでは絶食により顕著に増加したが、PGC-1αトランスジェニックマウスでは増加抑制された。Gpt2遺伝子発現は、野生型マウスにおいてはヒラメ筋で少なく、PGC-1αトランスジェニックマウスでは両筋において野生型よりも少なかった。以上の結果から、GPT2を介したグルタミン酸貯蔵量の制御が骨格筋の絶食応答に影響している可能性が示唆された。
R1-3-7
題  目 千曲川のリアルタイム洪水予測
研究者 エルネスト オランド  ロドリゲス アラス
概  要 千曲川の立ヶ花観測所の実時間洪水予測モデルでは、立ヶ花からその上流観測所である小市及び杭瀬下の区間は、3つの分割河道区間で構成され、貯留関数法で追跡する手法が用いられているが、モデルパラメータ値設定根拠は不明である。 更に,この実時間洪水予測モデルは平成17年以降発生した洪水データで更正されていない。 本研究では、最新の水文データも利用して、3つの分割河道区間を1つの河道区間とする新たな実時間洪水予測モデルを構築し、予測精度を定量的に評価する事を目的とする。 解析手法として、当該区間への横流入量を解析した後に、新しい実時間洪水予測モデル構成を一つ河道区間とする貯留関数法を用いた。元の実時間洪水予測モデルの構造よりも単純化した新しい実時間洪水予測モデルは、 6 時間先までの高精度な予測が可能となった。また、4 時間先までなら立ち上がり部とピーク流量発生時刻をより正確に予測することが可能となった。
R1-3-8
題  目 早産児、極低出生体重児における経母乳サイトメガロウイルス感染の感染率とその影響
研究者 小川 亮
概  要 母乳を介して赤ちゃんに感染を起こす数少ないウイルスにサイトメガロウイルス(CMV)というものがあります。CMVは多くの方は幼少期に感染し治癒しますが、ウイルスは体内にとどまります。母乳中にCMVが含まれ赤ちゃんに感染することがあります。早産で小さな赤ちゃんでは、CMV感染により重症化、難聴、発達に悪影響があるケースがあると海外から報告されています。日本ではこの点に関して報告がほとんどありません。私たちは尿を用いたCMV感染検査を行うことで、感染率や影響を調べています。生後早期に1回目、生後2,3か月に2回目の検査を行います。1回目陰性、2回目陽性の場合は母乳による感染と考えられます。現在まで、感染したケースは91例中6例(6.6%)ありました。1例は重症で残念ながら亡くなっています。5例の方は入院中の明らかな症状はありませんでしたが退院後の経過をみて発達への影響を調査しています。
R1-3-9
題  目 2014年神城断層地震震災デジタルアーカイブの構築及び防災教育授業開発
研究者 小保田 春加
概  要 災害の記録を残し、教訓を後世に伝承していくために、災害における知見や教訓を含んだ様々な災害関連資料を収集しデータ化して、デジタル媒体で保存し、活用に向けた「災害デジタルアーカイブ」の整備が近年進んでいる。本研究では、利用者の声を踏まえた「神城断層地震震災デジタルアーカイブ」構築のために、2校の協力校で本アーカイブを活用した授業実践を行なった。児童生徒の振り返りや担当教員へのアンケートを実施し内容を検証している。その中で学習によって災害を具体的に想像して自らの行動を顧みることができる成果があった。一方で、児童が活用するにはコンテンツの工夫や操作方法の簡易化が求められ、今後の改善すべき課題も明確化された。今後は,本研究で挙がった課題を踏まえて改良を続け、今回の実践を含め様々な防災学習の事例を集積して公開し、アーカイブを継続的に地域の学校で使い防災教育が継続されることを期待している。
R1-3-10
題  目 ダケカンバの集団動態史と長野県中部山岳域の役割
研究者 加藤 朱音
概  要 本研究では亜高山帯の先駆樹種として気候変動にいち早く応答すると考えられるダケカンバ(Betula ermanii)に着目し、集団遺伝構造から過去のダケカンバの分布変遷の歴史を推定し、気候変動影響評価に応用することを目的とした。特に本研究ではダケカンバ全国集団を対象にした先行研究(加藤2019)をより深化するべく、長野県の中部山岳周辺のダケカンバを対象に葉緑体ゲノム変異の地理的分布を詳細に調べた。その結果、五味池破風高原(須坂市)の8個体からは中部地方に固有な2つのハプロタイプ(遺伝子型)が見つかり、宝剣岳(駒ケ根市)の標高別5集団40個体からは新規2つを含む7ハプロタイプが検出された。特に宝剣岳では標高に沿ったハプロタイプ分布の違いがみられた。さらに東北・北海道集団に比べて長野県集団は地域固有系統や地域間の遺伝的差異が多く本種の歴史において重要な地域だったことが明らかとなった。今後は核ゲノム情報なども取得し、より詳細な歴史推定を目指す。
R1-3-11
題  目 HLA拘束性がん細胞障害を解析するための健常人HLA型ライブラリの構築
研究者 小嶋 俊介
概  要 WT1ペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法では、特定のヒト白血球型抗原(HLA)を有する患者において効果がみられると報告されている。しかし、特定のHLAを有さない患者においても免疫誘導を認めた症例を経験しており、免疫療法におけるHLA拘束性に関する解析が必要と考えている。本研究では、HLA拘束性に関する解析に必要とされる多様なHLA型を管理するための健常人におけるライブラリの構築を試みた。今年度は49名の同意の得られた健常人ボランティアの血液からDNAを抽出し、Luminexを用いたSSO法によるHLA抗原検査を行った。その中で検討予定であるHLA-A*02:01を有していないのは35名であり、そのHLA-A抗原のバリエーションは18種あった。この内、WT1と関連する他のHLA型や免疫誘導を認めた症例のHLA-A型を基に今後の解析に向けたcDNAクローニングに使用可能なタイプを検討したところ、さらなるデータが必要であることが分かった。
R1-3-12
題  目 変形性顎関節症と骨粗鬆症の関連性評価
研究者 小日向 清美
概  要 本研究では変形性顎関節症を患うと骨粗鬆症になりやすいのではないかという検証を顎関節のMRI、パノラマエックス線写真および踵骨超音波骨密度測定装置を用いて、変形性顎関節症と顎骨の骨粗鬆症化および全身の骨粗鬆症との関係性を解明する。未だ発症メカニズムや治療法に不明な点の多い変形性顎関節症と極めて罹患率の高い骨粗鬆症(顎骨の骨粗鬆症化および全身の骨粗鬆症)の相関関係が明確になれば、変形性顎関節症と骨粗鬆症の早期発見につながる。変形性顎関節症の若年患者には骨粗鬆症の予防を促進できる。また、中高齢の変形性顎関節症患者には骨粗鬆症の予防と早期発見に役立ち、骨粗鬆症患者には変形性顎関節症の発見につながることである。本研究において、ランダムに20名抽出しロジスティック回帰分析を行い検討したところ、変形性顎関節症と顎骨骨粗鬆症化および全身骨粗鬆症との関連があるという傾向がみられ た。
R1-3-13
題  目 神経芽腫の骨髄浸潤により必要輸血量が規定される因子ならびに機序の解明
研究者 紺野 沙織
概  要 【動機】進行性神経芽腫は強力な化学療法が実施されるため、ほとんどの症例で頻回輸血が必要だが必要輸血量は症例によって異なる。これまで一体どのような因子が必要輸血量に関与しているかは明らかでなく、貴重な資源である血液製剤の有効利用のために本検討の意義は高いと考え研究を開始した。 【方法】神経芽腫細胞の骨髄浸潤による直接的な造血幹細胞への影響を調べるために、治療前の骨髄検体を用いて細胞培養をおこなった。また骨髄浸潤の有無を確認するために、特定の因子について遺伝子発現解析をおこなった。 【成果】細胞培養の結果、赤血球の元となる細胞と治療中の必要赤血球輸血量に負の相関を示した。遺伝子発現は検体によってばらつきがあり、統計学的解析は困難であった。 【まとめ】治療前の細胞と治療中の輸血量に関与が認められたことから、腫瘍細胞の骨髄浸潤による抑制作用が造血能に長期的な影響をもたらしている可能性が示唆された。
R1-3-14
題  目 長野県内のC型慢性肝炎に対する直接作用型抗ウイルス剤治療の実態とウイルス学的著効後肝発癌を予想する因子の検討
研究者 杉浦 亜弓
概  要 C型肝炎は、C型肝炎ウイルスの持続感染により肝硬変や肝細胞癌へと病態が進行する。この病態進展抑制には、直接作用型抗ウイルス剤(DAA)によるウイルス消失が最も有効である。DAA治療は副作用がほとんどなく、95%以上の症例でウイルス消失:ウイルス学的著効(SVR)が得られる。しかしSVR後でも肝発癌する症例が存在し、新たな臨床的問題として着目されている。本研究では長野県内でDAAs治療を受けた症例の実態把握を行い、SVR後肝発癌に関する予測因子として、M2BPGi(Mac2-結合蛋白糖鎖修飾異性体)とATX(Autotaxin)が有用であるか明らかにすることを目的とした。結果、両者はDAA治療により有意に数値の改善を認めた。しかしM2BPGiはSVR24まで低下したのに対し、ATXはSVR12で下がり止まり、SVR後では異なった動向を示すことがわかった。またM2BPGiはSVR達成から1年以内に発癌を予測する因子として有用である可能性が示唆された。SVR後の発癌は未だ少数のため今後更なる症例の蓄積が必要である。
R1-3-15
題  目 機械学習を用いたプラスチックシンチレーターの光量一様性向上のための研究
研究者 寺田 怜真
概  要 日本で建設が計画されている次世代加速器実験(ILC) 実験では、今までに比べて圧倒的に高い精度での、Higgs 粒子を含む物理の探索を目指している。信州大学では、そこに利用される測定器として、プラスチックシンチレータと光センサーMPPC を用いる、シンチレータ電磁カロリメータの開発と、鉛ガラスを吸収層に用いたカロリメータの、2 つのタイプの検出器の開発を行っている。両者とも、検出器を粒子が通過した時の光を測定をする検出器であり、数万チャンネルの個々の精度が、全体の性能に大きな影響を及ぼす。精度向上のためには、通過した場所によらず、一定の通過量に対して一定の光量が検出される必要があり、光センサーと測定器のマッチングが重要である。これは形状に大きく依存し、変数が多いため人間での最適解を求めるのは難しい状況である。そのため、機械学習を用いて、この形状の最適化を行うのが本研究の目的である。
R1-3-16
題  目 Laser microdissction法を用いた微量アミロイド蛋白の解析法の確立:臓器内アミロイド蛋白の不均一性の解明
研究者 中川 真優子
概  要 本研究では遺伝性ATTRアミロイドーシス患者の沈着アミロイド蛋白の心筋内と末梢神経内の部位・組織ごとのアミロイド蛋白の生化学的特性について解析を行い、臓器内多様性について検討する。方法は、遺伝性ATTRアミロイドーシス患者(V30M変異)の心筋(1名)・末梢神経(4名)病理組織標本からLaser microdissectionで部位・組織ごとにアミロイド蛋白を抽出し、LC-MS/MSで変異型・野生型TTR比率を解析した。心筋の部位別では変異型TTR比率の平均が右室と左室前壁で80.7%であるのに対し、心室中隔では59.5%であった。組織別では、変異型TTR比率の平均は心内膜が77.6%、外膜では68.5%であった。末梢神経では、神経内膜91.7%、神経外膜82.0%であった。心筋・末梢神経において同一臓器内でも沈着アミロイド蛋白は組織部位ごとに変異型TTRと野生型TTRの構成比が異なる可能性がある。
R1-3-17
題  目 草原性絶滅危惧種キキョウの繁殖生態 −花の咲く向きに着目して
研究者 中田 泰地
概  要 花の咲く向き(花向き:水平面に対し下・横・上向き)は、送粉者による自然選択下で繁殖成功を最大にするように進化したとされている一方で、降雨などの非生物学的な要因によっても影響をうけることが示唆されている。本研究では横向きに花を咲かせるキキョウを用いて、花向きを操作し、上・下向き処理において、花向きを変更しない対象区横向きと比べて「送粉者の訪花頻度と 送粉成功が低下するか」、「横向きの開 花が降雨による繁殖器官への負の影響を軽減しているか」という二つの問いを検証した。調査の結果、訪花頻度は下向き処理で減少した一方、上向き処理では対象区と訪花頻度における差はみられなかった。一方 、両 処理で、対象区と比べ、送粉成功は低下した。また上向き花の花粉は降雨で浸水しやすいこと、実験から花粉の発芽能力が浸水により低下することが示唆された。横向きの花は、送粉者と降雨による選択下でより適応的であること示唆された
R1-3-18
題  目 横岳火山、過去1万年間の火山活動史の復元に関する研究
研究者 新田 寛野
概  要 八ヶ岳火山群唯一の活火山である横岳には、3枚のテフラが報告されるものの、その内2枚のテフラ(NYk-2, NYk-1)は分布の詳細が不明瞭なままである。そこで、横岳のテフラ層序および噴出年代を検討するために、山頂周辺の地形判読、地質調査、テフラ粒子観察、14C年代測定を行った。地質調査の結果、新たに1枚のスコリア層(NYk-Sテフラと呼称)を認めた(下位から順にNYk-2, NYk-S, NYk-1テフラ)。年代測定の結果、各テフラの噴出年代は下位から約2,400年前、800年前、550年前と推定した。各テフラの噴出量は、下位から8×10−4、9×10−4、3×10−4 DRE km3と推定した。本研究結果と既存の年代および噴出量から、横岳過去34,000年間と3,400年間の噴出率は約9×10−3,1×10−2 km3/kyと推定され、過去34,000年間の噴出率は一定であることが示唆された。また、これまで考えられていたように溶岩流を流出させる活動だけでなく、スコリアを含むテフラを放出するような爆発的噴火も複数回起こしていることが明らかとなった。
R1-3-19
題  目 長野県上伊那地方におけるゴミムシ類の群集構造と環境評価に関する研究
研究者 本間 政人
概  要 ゴミムシ類は環境指標としての利用が期待されるが、長野県では知見が乏しい。そこで、本研究は 上伊那地方の伊那キャンパスにおけるゴミムシ類群集の知見の収集及び環境指標性の有効性を考察することを目的とした。調査地は構内において近接した異なる植生環境の18 地区とし、三つの環境に分類した。なお、地区間は最長で847mである。調査は 2019年4月〜11月に実施され、群集構造と環境指標性について検討した。その結果、ゴミムシ類は62種、8,709 個体が得られ、近接でも異なる立地環境間では群集構造に違いがあり、光条件やリター量等との関係性があった。以上、異なる植生環境が近接する条件でもゴミムシ類群集の組成と構造には明らかな違いが認められ、小規模なスケールでの環境指種としての有用性が示された。なお、環境指標の候補としては先行研究で言及された属に加え、新たに数種が指標種として利用可能であることが示唆された。
R1-3-20
題  目 渓流棲哺乳類カワネズミの中部山岳域における遺伝構造研究
研究者 山崎 遥
概  要 カワネズミは山岳渓流に生息する日本唯一の水生トガリネズミである。日本固有種で希少性が高く、保全の必要性が指摘されているが、捕獲ストレスに脆弱であるため研究。本研究では、カワネズミ糞サンプルを用いた遺伝子解析手法を駆使し、カワネズミの生息する山岳渓流のできる限り広域から糞をサンプリング・遺伝子解析することで、新規生息地点を把握と遺伝構造や進化史の詳細な究明を目指した。調査により45地点にて新規にカワネズミの生息を確認することができた。ミトコンドリアDNA cyt b領域遺伝子解析の結果、カワネズミは異なる4遺伝系統群に分かれ、これらは氷期における異なるレフュジア(避難地)に由来すること、このうち2系統群は中部山岳域の広域で分布が重複していることが示唆された。核DNA解析結果より、中部山岳域の異なる2系統群の分布重複域では、これら2集団が大規模に交雑していることが新たに明らかとなった。
R1-3-21
題  目 超低温保存に適したラット膵島カプセル化技術の開発
研究者 山中 貴寛
概  要 機能が異なる複数の細胞からなる複雑な構造体 (膵ランゲルハンス島) を蘇生させることは困難で、凍害保護物質の化学毒性や氷晶形成による物理傷害などを抑制するための工夫が必要であり、そのような試みの1つに天然高分子ゲルで細胞を覆うというものがある。本研究は、アルギン酸ゲルを用いた膵島カプセル化技術を確立することを目的として、固体表面ガラス化法により急速冷却したアルギン酸ゲル自体の低温保存耐性、ならびにそこに包埋したラット膵島の低温保存耐性を調べた。その結果、マイクロリソグラフィー法を用いることで、ラット膵島をアルギン酸ゲルカプセルに包み込むことができたが、現時点ではガラス化耐性を改善するまでには至らなかった。カプセルに包まれることにより膵島までの拡散距離が大きくなったためにガラス化処理が不十分であること、最適なガラス化液の処理時間を特定することにより生存率を向上できることが示唆された。
R1-3-22
題  目 長野県におけるエゾハルゼミの遺伝構造と集団動態の解明 〜気候変動による影響評価〜
研究者 湯本 景将
概  要 森林生態系への気候変動影響評価において、森林生態系の中で需要なニッチを占める森林性昆虫を対象とした研究例はほとんどない。そこで、本研究では気候変動影響評価を見据えた森林性昆虫と森林生態系との関係を解明することを目的に、環境指標生物として知られるセミ科昆虫の1種で、日本では冷温帯や山岳域の森林に生息するエゾハルゼミ(Yezoterpnosia nigricosta)に着目した。2018年および2019年に、長野県および他地域において、本種の抜け殻および成虫を採集した。これらサンプルからDNAを抽出し、核DNAマイクロサテライトマーカー8座の遺伝子型データを取得した。本データから本種の遺伝構造を評価したところ、東北地方中南部付近を境に、北方系集団と南方系集団に大きく分かれる構造が検出された。本結果を冷温帯林主要樹種の遺伝構造と比較したところ、森林樹木と同様の集団動態史を有する可能性が示唆され、宿主との関係性を考慮した気候変動影響評価が必要であると考えられる。
R1-3-23
題  目 長野県内ヒメドロムシ科昆虫のファウナ(ヒメドロムシ相)の究明と遺伝構造の把握
研究者 吉田 匠
概  要 生物多様性の把握は人間を取り巻く環境を評価する上で重要である。また、生物の遺伝子を調べ、比較することは、生物多様性を正確に把握するために有用な手法であり、これまでにも多くの未記載種が発見されてきた。河川の中に生息しているヒメドロムシ科の昆虫は、移動が河川水系内に制限される傾向が強く、翅を持たないために飛ぶことができない種も確認されていることから、山地や河川の形成の歴史と遺伝的な多様性の創出や種分化との関連性が高いことが予想される。しかし、長野県ではヒメドロムシ科昆虫の詳細な調査がなされていない。そこで本研究は、長野県内およびその周辺地域でヒメドロムシ科昆虫のファウナ調査を行い、今後、ヒメドロムシ類を材料にして研究を実施するための基盤を形成した。また、本調査で得られたサンプルを用いて遺伝子解析の手法を確立し、長野県内で採集されたヒメドロムシ類から、研究材料に適した種の選定を行った。

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