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平成28年度 研究概要 (第3部門)

H28-3-1
題  目 Fibrinogen storage disease (FSD) における異常タンパク質分解機構の解析
研究者 新井 慎平
概  要 <動機>FSDは、肝細胞内に異常フィブリノゲン(Fbg)が蓄積して細胞傷害を引き起こす病態であり、現在までに6種類のFbg遺伝子変異が報告されている。患者FbgがFSD発症型かどうかは患者予後・QOLを左右する要素であり、 FSDの病態メカニズムの解明が望まれる。今回、我々は細胞内タンパク分解機構の一つであるオートファジーに着目して研究を進めた。<方法・成果等>オートファジーによる分解時にはオートファゴソーム膜表面にLC3-IIが発現する。現在までに樹立したFSD細胞株のうち症例数の最も多いγR375W変異を対象に、細胞内LC3-II発現の有無を検討した。抗LC3 抗体を用いた蛍光抗体法で確認したところ、FSD細胞株でのLC3-II発現は認められなかった。FSD細胞株では細胞内に異常封入体が形成されるが、それらはオートファジーによる分解機構の影響を受けていない可能性が考えられた。今後は、オートファジー増強剤などの薬剤を用いて細胞内封入体を消失できるか検討する予定である。
H28-3-2
題  目 子宮間葉系腫瘍に対する血液・尿を用いた術前診断」の確立に向けて:エキソソーム内の子宮肉腫特異的因子の同定
研究者 安藤 大史
概  要 子宮平滑筋肉腫(子宮肉腫)は再発・転移を繰り返す難治性腫瘍であるが、子宮筋腫など良性の間葉系腫瘍との区別を行うには現在のところ子宮摘出を行わなければならならず、子宮肉腫に対する簡便な診断法の開発が望まれる。そこで、クリニック等でも簡便に行える血液・尿を用いた検査法を確立することが本研究開発の目的である。本研究において、安藤らは、患者より摘出された子宮筋腫組織52 症例、子宮肉腫組織58 症例とその正常平滑筋組織74 症例で、DNA MicroArray の遺伝子プロファイリングの結果と免疫組織化学染色を行った。その結果、ヒト子宮肉腫特異的に発現している候補因子(Caveolin1、Cyclin B、Cyclin E、EGR1)を特定することが出来た。今後は、患者の血液と尿からエキソソームを精製し、肉腫の指標となる因子の検出方法(ELISA 法、EIA 法、凝集法など)の基盤を確立することを目指す。
H28-3-3
題  目 パノラマエックス線写真を用いた頸部動脈石灰化病変(頸動脈狭窄症)のスクリーニングと現在歯数と全身疾患の関連性検討
研究者 石岡 康明
概  要 パノラマX線写真を利用して、頸動脈石灰化の有無を診断、患者に血管障害の発症の可能性を説明し医科に促すことで、血管障害を未然に防ぐことが可能と考えられる。されに、血管障害は歯周病との関連が強く示唆されており、現在歯数と全身疾患と関連についてその関連性を検討することが急務となる。対象は、351名(男性:194名、女性:157名)で、年齢は40歳から95歳、平均年齢は66.1±11.7歳、平均現在歯数は19.6±7.9歯であった。頸動脈石灰化群は、181名(男性:97名、女性:84名)、平均年齢は71.9±10.3歳、平均現在歯数は16.3±8.5歯であった。健常群では170名(男性:97名、女性:73名)、平均年齢は60.1±10.0歳であり、平均現在歯数は23.0±5.1歯であった。50歳以上から頸動脈石灰化の症例が増加し、60、70歳代で著明であった。年代ごとの性別は、70歳代男性、70歳代女性、60歳代女性の順に多かった。健常群と頸動脈石灰化群の平均現在歯数の比較では、有意差が認められた(p<0.001)
H28-3-4
題  目 有機分子が触媒する電気化学的還元反応機構の解明
研究者 内田 太郎
概  要 環境問題の観点から、 環境負荷の高い副生成物の削減、 有効活用に注目が集められており、 その中でも電気化学的CO2還元に注目が集まっている。 最近、 電解液にある種の有機分子添加し、CO2還元を行うと、添加しない場合と比べ、電解生成物およびその生成効率が異なることが報告されている。 しかしながら、これらの反応機構については明らかにされていない。 本研究では、 電気化学的手法および電極界面を選択的に観測可能な表面増強赤外分光を組み合わせ、 電気化学的CO2還元反応のその場測定を行った。中性電解液中にピリジン(Py)を添加し、Pt電極でCO2還元をおこなったところ、 中間体として、Pt電極表面の吸着COと、α-pyridylが観測された。これまで、この反応では溶存したプロトン化Pyが溶液中でCO2と反応し、ギ酸を生成するバルク中での機構が提唱されてきたが、 それとは異なる反応があることが示唆された。
H28-3-5
題  目 一時的非公開
研究者 西本 正則
概  要 一時的非公開
H28-3-6
題  目 新生児髄膜炎の主要な病原株であるB群溶血レンサ球菌高原性クローン(血清型III、ST-17クローン)におけるペニシリン低感受性出現の可能性の探究
研究者 小坂 駿介
概  要 B 群連鎖球菌(GB S)は、 新生児及び高齢者の侵襲性感染症の重要な原因菌のひとつである。GBS感染症の治療にはペニシリンが用いられるが、近年、本薬剤に耐性を示すペニシリン耐性GBS(PRGBS)や、PRGBSのスクリーニング試験で鑑別が困難なセフチブテン耐性ペニシリン感性GBS(CTBrPSGBS) が報告されている。 本研究では、 これまで報告のない新生児由来のPRGBS出現の可能性を検討するため、ペニシリン(PEN),セフォタキシム(CTX),セフチブテン(CTB) による新生児侵襲性感染症の高病原性クローンである血清型V、 ST17株を用いたPRGBSへの変異誘導実験を実施した。実験の結果、選択薬としてPEN およびCTXを用いた場合PENのMICが上昇したが、CTBを用いた場合PENのMICの上昇は認められなかった。得られた変異株のアミノ酸配列を解析すると、PENのMICが上昇した株には、臨床分離株PRGBSが有するアミノ酸置換の近傍に複数のアミノ酸置換が存在することが明らかとなり、 血清型V、 ST17株におけるPRGBSの出現の可能性が示唆された。
H28-3-7
題  目 電気伝導性酸化物の微細接合における電流-電圧特性の研究
研究者 大日方 優輝
概  要 バルクにおける電気伝導特性は試料全体の平均的な特性を示すものである。一方、試料に微細な接合を形成すると接合部分に電場が集中するため局所的な電気伝導の様子を抽出することが可能となる。本研究では電気伝導性を持つ酸化物で遍歴電子強磁性体のSrRuO3(強磁性転移温度160 K)の微細接合を形成し、強磁性におけるスピンに依存した電気伝導特性を見いだすことを目的とした。バルクの電気抵抗は強磁性転移温度以下では小さくなることが知られているが、本研究で微細接合を形成することにより、微分コンダクタンススペクトルにはpeakとdipの2種類の形状が現れることが判明した。これは常磁性状態では観測されなかったため、接合によって強磁性状態でのスピンに依存した電気伝導を抽出することができたと言える。バンド構造を考えることでSrRuO3 接合の両極における磁区のスピンが平行(反平行)であった場合peak(dip)のコンダクタンススペクトルとなることが説明できる。
H28-3-8
題  目 海外渡航歴のない患者由来NDM-5 メタロ-β-ラクタマーゼ産生Escherichia coliにおいて国内で初めて確認されたチゲサイクリン耐性獲得の機構の解明
研究者 斎藤 さとみ
概  要 Tigecycline(TGC)は多剤耐性菌感染症の数少ない治療抗菌薬であり、これまで国内でTGC耐性菌の報告はない。国内で検出されたTGC 感性の血液、糞便、胆汁由来各1 株及びTGC耐性の血液由来1 株、腹腔ドレーン由来2 株の全6 株(いずれもST410)について解析し耐性機構の解明を試みた。PFGE 解析及びPAβN による阻害試験を実施した。またTGC 耐性に関わる遺伝子16 個について変異の有無を調べた。PFGE 解析の結果、6 株は4 種のクラスターに分類されたが、全株の相似度は94%で遺伝的関連性が認められた。PAβN 添加によりTGC のMIC は低下せず、臨床分離株で報告されている主要な耐性機序である多剤排出ポンプの発現上昇に関わる遺伝子に耐性に関わる変異はなかった。また、その他の耐性機構に関与する遺伝子にも耐性関連変異は認められなかった。本事例ではTGC 投与後早期に耐性株が検出されたため、多剤耐性菌感染症の治療においてはTGC 投与中の選択圧による耐性化に注意する必要がある。
H28-3-9
題  目 シダクロスズメバチの働き蜂の遺伝的多様性増加が利益を生む機構の解明
研究者 佐賀 達矢
概  要 東海地方で蜂の子として食されるシダクロスズメバチは、女王蜂が複数の雄と交尾をする。女王蜂の交尾回数が増えるごとに、感染症や被食リスクの増大、エネルギー消耗など女王蜂の生存への負の影響が考えられ、なぜ女王蜂が多回交尾するかについては進化上の謎である。一方で、多回交尾した女王蜂の巣は、異なる父親由来の働き蜂たちで構成され、巣仲間の遺伝的多様性が高まるという側面もある。私は、女王蜂の多回交尾の利益として、働き蜂の父系によって病原体への抵抗性が異なる場合には、遺伝的多様性が高い巣ほど巣規模での病気への抵抗性が高まると考えた。そこで、昆虫病原菌を本種の働き蜂に曝露して父系によって生存時間に差があるか検証した。その結果、働き蜂の父系によって病原菌への抵抗性が異なることが明らかとなった。本研究により、女王蜂の多回交尾の利益の一つを明らかにでき、多回交尾は病原菌との関係によって進化した可能性が考えられた。
H28-3-10
題  目 高齢市中肺炎患者の嚥下筋活動と嚥下障害残存要因の検討
研究者 酒井 康成
概  要 高齢者の肺炎の多くは誤嚥や嚥下障害が原因の誤嚥性肺炎である。市中肺炎患者は誤嚥や嚥下障害が関与しているとされ,退院時の嚥下障害を予測することは食形態の判断や胃瘻造設の判断に重要である。しかし市中肺炎患者における嚥下障害の残存因子は明らかとされていない。そこで本研究は嚥下障害を合併している市中肺炎患者の嚥下筋活動を含めた嚥下機能の特徴と嚥下障害残存因子を明らかにすることを目的とした。入院肺炎患者 163 名を対象と し退院時の FOIS によって嚥下障害残存群と嚥下障害がない群に分け,2群の比較検討および嚥下障害残存因子の分析を行った。2群間の比較では摂食開始時のFIOS、年齢, 肺炎重症度, GNRI, 嚥下筋活動 (嚥下時間・舌骨上筋群・舌骨下筋群の最大活動量)、呼吸数、入院期間および絶食期間に有意差を認めた。市中肺炎患者における嚥下障害残存因子としては嚥下筋活動時間が抽出された。肺炎患者の嚥下筋活動時間が退院時嚥下障害残存を予測するために最も重要な因子であったことから入院早期より嚥下筋活動を賦活させ,嚥下筋活動の収縮時間の遅延を短縮させることが嚥下障害を軽減するために重要であると考えられた。
H28-3-11
題  目 日本に分布する感染症媒介蚊ヒトスジシマカの産卵行動と光環境の影響
研究者 島袋 梢
概  要 感染症媒介蚊は様々な病気を運ぶ。日本国内に分布するヒトスジシマカもまたその一つである。感染症の媒介には吸血/産卵/休息が重要と考えられており、それらの行動に影響を与えることができる技術は、新しい対策方法への応用の可能性がある。本研究では、すでに効果がみられている産卵行動に対する光環境の正の相関関係について詳細を調べた。形を一定にした産卵筒内部の光量を調整できるシステムを設計し、光量の影響を定量的に評価した。測定の結果、これまでの研究結果と同様に、産卵行動に対する光環境の正の相関関係がみられたものの、暗条件へより強い選択行動が見られる結果となった。産卵行動において光環境は無い方がより好まれるが、光環境がある場所で産卵する場合は光環境の光量と正の相関関係を示すことが分かった。これらの現象は、光に対して相反する反応であり、その要因は複数あると予想され、今後の課題となった。
H28-3-12
題  目 長野県を中心とするカワネズミの分子系統地理学的研究
研究者 関谷 知裕
概  要 カワネズミ Chimarrogale platycephala は水生生活に適応した日本固有の小型哺乳類である。河川環境の荒廃などにより、個体数や生息地そのものの減少が危惧されている。保全の観点からは行動・生態、集団構造や遺伝構造等の基礎的情報の蓄積が必要とされている。本研究では糞を用いたカワネズミの遺伝構造の解析を行い、中部山岳地帯広域で2つの系統が広い地域で混生していることを明らかにした。氷期において複数の地域に縮小したカワネズミ集団が、その後に集団サイズや分布域を拡大したことが考えられる。その際、そのうちの2系統が、氷期には生息の空白地帯であった中部山岳域で二次的な接触を起こしたため、中部山岳域で両系統が混生していると考えられる。また、糞サンプルの保存法の改良によって、以前の手法では困難であったサンプルからのDNAの解析が可能となった。このような手法改良はカワネズミ糞を用いた DNA解析の効率を極めて向上させたと考える。
H28-3-13
題  目 ”新野の雪祭り”に登場する藤布衣装の科学分析とその復元への試み
研究者 仙波 壽朗
概  要 “新野の雪祭り”の衣装素材に付着している物質を分析し、製作技法について検討した。光学顕微鏡を用い付着物を観察したところ、数十μm程度であり繊維と分離して測定することは困難であった。そこで微小領域に有利な放射光赤外顕微分光測定を行い、付着物として考えられる豆汁、膠、米粉、漆、藤繊維と比較した。その結果、付着物は部位によりスペクトルの形状が異なり、複数の物質から成ることが分かった。参照試料として測定した豆汁や膠、米粉、漆は付着物として考えて矛盾しないが、特定するには至らなかった。尚、豆汁は濃染化処理のために使用された可能性が高い。また付着物の3000〜3500cm-1付近に観測される構造は、参照スペクトルのどれとも合致しない。この要因として現代との材料や染色工程の違い、他の物質の使用などが考えられる。
H28-3-14
題  目 測度論・確率論の圏論的考察およびその応用
研究者 田中 康平
概  要 圏論は現代数学において,様々な数学的構造を抽象的かつ包括的に扱う理論である。代数学,幾何学,解析学等に用いられる多様な概念に対し,普遍性や極限操作を統一的に記述する圏の枠組み設定は,その構造の本質を捉える意味でも重要である。我々は統計学などの基盤となる確率(測度)論に新しい圏構造を定式化するため研究をスタートした。古典的に知られている圏構造もあったが,その枠組みでは普遍的構成,極限操作が難しいというデメリットがあった。我々は関数解析学の分野で用いられる有界作用素の定義を参考に,新しい圏構造を測度(確率)空間上に導入した。この圏構造を用いて主に2つの有用性を確認した。まずは量子測度(確率)空間との双対性を圏の言葉で記述したことである。そして2つ目として,量子条件付き測度空間を,古典的な場合との双対性を勘案して定式化したことである。
H28-3-15
題  目 ミズチドリ(ラン科)の送粉生態と地域適応の検証
研究者 玉田 容子
概  要 ラン科植物は、日本国内で250種以上が知られているが、野外でどんな昆虫が花粉を運んでいる(送粉している)のか等といった送粉生態についてよくわかっている種は少ない。本研究ではチョウとガが花に訪れるミズチドリ(ラン科)を対象に、その送粉昆虫を特定することと地域間で異なる送粉昆虫への適応があるかを検証することを目的に調査を行った。長野県内の3集団において、花に訪れる昆虫を調査する為にカメラを用いて観察し、昼もしくは夜に花へ網をかけることでチョウとガのどちらが送粉に関わっているのかを確かめた。その結果、3集団で共通してヤガ科キンウワバ亜科のガが訪花し、開田高原の1集団でのみチョウも訪花した。網掛け処理から、開田高原ではガが主に花粉を運び、チョウは補助であることも示唆された。本研究では、ミズチドリの主な送粉昆虫はヤガ科キンウワバ亜科のガであり、一部の集団でチョウへの適応が生じている可能性が示唆された。
H28-3-16
題  目 長野県を中心とする生息地間での止水性水生昆虫の個体群構造と遺伝構造の比較検討
研究者 冨田 和宏
概  要 河川の氾濫原やワンド・タマリ、湖池沼といった水環境は、止水棲昆虫類の重要な生息地である。近代においては、人工的に構築された水田や灌漑用のため池が氾濫原などの代替地として機能してきた。しかし、近年では、河川改修や圃場整備、外来生物の侵入・定着などにより止水環境が劇的に悪化し、止水棲昆虫類は激減している。 自然環境が豊かな長野県においてもこれらの昆虫は減少傾向にあると予想されるが、生息実態に関する知見は不足している。また、複数の水域を往来する止水棲昆虫類にとって生息地間の連結性は重要である。本研究では、まず長野県内広域における止水棲昆虫類の分布調査や個体群構造解析を実施した。さらに、松本盆地を対象とし、絶滅危惧種であるコオイムシAppasus japonicusの集団構造・遺伝構造解析を実施した。その結果、松本盆地内のコオイムシの生息地における「Source(供給地)-Sink(一時的利用地)」の関係性を示唆する結果が得られた。
H28-3-17
題  目 γ鎖364番コドンの2塩基欠損を原因とする
研究者 永田 和寛
概  要 フィブリノゲン(以下Fbg)は血液凝固の最終段階で止血に関与する糖蛋白質で、健常人血漿中には180-350 mg/dL存在している。症例OtaIは、Fbg活性量68mg/dLおよび抗原量64mg/dL(基準範囲180-350 mg/dL)と低下しており、Fbg低下症が疑われた。遺伝子解析を行った結果、γ鎖364番コドンの2塩基欠損が認められた。本研究では、この遺伝子変異による異常アミノ酸配列の発生がFbgの組み立てを阻害するかについて、さらに、どの部位に異常アミノ酸配列が存在するとFbgの組み立てに影響を与えるかについて検討を行った。実験結果は、γ鎖364番、370番、379番および385番の2塩基欠損では、Fbgへの組み立てが認められず、γ鎖387番および391番の2塩基欠損では、Fbgへの組み立てが認められた。以上より、症例OtaIはγ鎖364番コドンの2塩基欠損による異常アミノ酸配列の存在が、Fbgへの組み立てを阻害しており、特にγ鎖385番および386番の異常アミノ酸配列が、Fbgへの組み立てを不可能にすることが証明された。
H28-3-18
題  目 複数の自閉症モデルマウス系統を用いた行動異常の共通性・相違性の分析
研究者 中易 知大
概  要 自閉スペクトラム症(自閉症)の発症に、神経細胞間の情報伝達を担うシナプスの異常が関与することが明らかになりつつある。しかし、自閉症治療に効果的な薬物の開発が遅れている現状がある。本研究では、シナプスの形成・成熟に関与する細胞接着分子の一つであるニューロリギン3の遺伝子改変マウス(R704Cマウス)を中心に、網羅的な行動解析を行うとともに、行動障害改善に効果的な薬物のスクリーニングを行い、さらに、R704Cマウスの電気生理学的異常が薬物投与により改善されるのかを検証した。結果、@R704Cマウスは新奇個体との接触時間の減少などの社会行動異常や反復行動の指標であるグルーミング行動の亢進など自閉症関連行動を示すこと、A選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるフルオキセチンが社会行動異常の改善に効果的であること、BR704C マウスのAMPA受容体を介したシナプス伝達の減弱がフルオキセチン投与により改善されること、などが明らかになった。
H28-3-19
題  目 パーキンソン病患者のすくみ足に対する視覚刺激の影響
研究者 西川 良太
概  要 パーキンソン病患者を対象とし、ポータブル視覚刺激デバイスを使用し、適切な視覚刺激条件を探索的に検証した。パーキンソン病患者10名に対して、主観的な印象に基づき、自然に歩行しやすい至適視覚刺激条件を抽出するため、コントロール条件で10m歩行を実施したのち、光刺激歩行アシストシステム(OGAS)装着条件(視覚刺激持続時間は3条件(10・30・50%))をランダム化して2回ずつ、計6回の10m 歩行を測定した。歩行特性では、コントロール条件に比べて刺激条件では有意差がみられなかった。しかし、刺激条件とコントロールを比較すると、刺激条件の方が変動係数は小さくなっているものが多かった。パーキンソン病患者の歩行時に、OGASを使用して歩行特性の変化を確認したが、歩行特性のばらつきには有意差がみられなかった。
H28-3-20
題  目 活動量計を用いた筋疾患患児に対するステロイド剤の効果の検討
研究者 西澤 公美
概  要 <1.研究の動機>筋疾患児を対象とした従来の運動機能評価は来院時に行われることが一般的で頻度は低く定点的であり、さらに患者の体調や機嫌に影響されやすい。そこで、本研究の目的は、活動量計を用いた活動量の評価を導入し、ステロイド剤の効果を非侵襲的に評価する方法を提案することとした。<2.方法>被験者は5歳の患者1名。活動量計の評価方法は、次の来院日までの連続した14日間とした。評価指標は、運動エネルギー量と歩数の平均値とした。従来の運動機能評価法としては、来院時に10m走行テスト、6分間歩行テストなどを評価した。<3.結果>活動量計、従来の運動機能評価ともに、ステロイド剤投与前にくらべ投与直前では改善傾向が見られた。<4.考察>活動量計による活動量の評価は、ステロイド剤投与前後の日常生活における連続した活動の様子を簡単かつ非侵襲的に測定でき、従来の運動機能評価の結果を裏付ける評価ツールになる可能性がある。
H28-3-21
題  目 県内天然林の炭素固定サービス評価のための炭素放出量に関する研究
研究者 西村 貴皓
概  要 森林の炭素(二酸化炭素)固定は、森林生態系の重要な働き(生態系サービス)の一つである。森林面積が8割にも達する長野県は、 森林の炭素固定量は相当なものと考えられるが、その正確な推定には至っていない。その理由の一つに、森林と一言でいっても様々な森林があり、成立している場所、構成種、さらに森林の年齢等の違いによって炭素固定量が異なるからだ。なかでも成熟した巨木が多い天然林の炭素固定量について、未だに謎が多い。 私は典型的な天然林のブナ成熟林の炭素固定量を高精度に推定することを目的として研究を行ってきた。本研究では、特にブナ成熟林の炭素放出量の時間的・空間的なバラツキの把握を行い、他の森林と比べて炭素放出量の時間的・空間的なバラツキが非常に大きいこと、時間変動はブナの光合成速度の影響を受けている可能性を明らかにした。偏性嫌気性菌や微好気性菌といった細菌は培養条件が厳しく、好気性菌のように検査に関する標準法が確立されていないため、菌種同定や薬剤感受性試験に苦慮することが多い。本研究では臨床検体より分離に成功したHelicobacter fennellias を対象に培養および薬剤感受性試験における最適なガス環境の検索を行った。当該菌種は微好気性菌に分類されるものであるが、発育の良し悪しは環境中の水素濃度に依存するといわれている。種々のガス環境を作成し、短時間で最大の菌類が得られる最適な培養環境の検索を行い、最適培養条件における同定検査・薬剤感受性試験を行った。
H28-3-22
題  目 北アルプス・白馬大雪渓における地形災害について
研究者 畠 瞳美
概  要 北アルプス北東部に位置する白馬大雪渓は日本三大雪渓の一つで、夏季には毎年1万人以上の登山者が通過する日本屈指の登山ルートである。白馬大雪渓上では岩壁の落石や崩落で生産される岩屑により毎年のように登山事故が起きている。本研究では、落石・崩落の実態や大雪渓周辺の地形変化を明らかにすることを目的として、2014〜2016年にドローン空撮、礫の地質調査、アイスレーダーなどの現地調査を実施した。その結果、(1)白馬大雪渓周辺の岩盤侵食様式は地質によって異なり、線状タイプと面状タイプがあること、(2)積雪量の違いによって凍結融解による落石の生産時期や量が異なること、(3)クレバスの出現は積雪量に依存しており、クレバスの位置から雪渓内部の地形を推定できることが明らかになった。
H28-3-23
題  目 SHARP-2 はインスリン遺伝子の転写に関与するか
研究者 花岡 由紀奈
概  要 ラットenhancer of split-and hairy-related protein-2(SHARP-2)は、basic helix-loop-helix 型転写抑制因子である。SHARP-2 と相互作用するタンパク質をラット肝cDNAライブラリーからスクリーニングしたところ、Sex-determining region Y-box6(Sox6)がクローニングされた。SHARP-2とSox6の物理的相互作用を解析したところ、Sox6の144-787(C 末端)までのアミノ酸配列を含むクローンであるSL-88は、SHARP-2の356-411のアミノ酸配列と相互作用することが明らかになった。マウス膵細胞株である MIN6 細胞にインスリン遺伝子プロモーターを含むレポータープラスミドとSHARP-2発現ベクターをコトランスフェクションしたところ、プロモーター活性の上昇が見られた。現在、この転写促進活性に、Sox6がどのように影響するか検討中である。
H28-3-24
題  目 日本産ウラギンヒョウモン2型間の生態的差異の検出
研究者 濱本 健汰
概  要 同属の近縁種は、一般的に地理的・生態的に隔離されることにより遺伝子の交流が妨げられている。しかし、ヒョウモンチョウ類は、分布域、食草類、発生時期、飛翔時間帯、形態などが近縁種間で類似しているにもかかわらず複数種が共存している場合が多い。そのヒョウモンチョウ類であるウラギンヒョウモンは日本に今まで1種だけとされていたが、DNA解析により3種存在することが報告された。しかし、DNA情報の詳細や、各種の詳しい生態情報はわかっていない。そこで本研究では長野県において野外観察や分子系統解析を行い、ウラギンヒョウモンの実態について調査した。その結果、長野県では大きく異なる2型が同所的に分布していること、それらの2型が共存する地点では、成虫の発生時期、飛翔時間帯、訪花植物種に顕著な差が見られないことが判明した。以上の結果から、 ウラギンヒョウモンの2型が形質置換することなく共存していることが示唆される。
H28-3-25
題  目 人工がん幹細胞作成技術の確立に向けた細胞生物学的検討
研究者 平島 寛司
概  要 がん治療が困難である主な理由は転移と再発であり、その原因としてがん幹細胞の存在が注目されている。今回、iPS細胞の作成時に使われる山中4因子をがん細胞に導入するリプログラミングによって、がん細胞を未分化な状態へと戻すことで、発見が困難ながん幹細胞の性質を具有する『人工がん幹細胞』の作成を試みた。まず、肝臓がん細胞株および大腸がん細胞株をリプログラミングして多能性幹細胞様コロニー(細胞集団)を作成した。非リプログラミング細胞株および多能性幹細胞様コロニーを免疫不全マウスの腎臓・脾臓にごく少量移植したところ、リプログラミング大腸がん細胞移植マウスで腫瘍が形成された。 この腫瘍は単なる細胞の塊ではなく、大腸がんの病理像の特徴を複数有していた。極めて少量の細胞で腫瘍組織の構築が見られたことから、リプログラミングによって人工大腸がん幹細胞を含んだ細胞集団の作成に成功したものと考えられる。
H28-3-26
題  目 プラスミド性カルバペネマーゼ産生Enterobacter spp. の実態調査および遺伝学的解析
研究者 前山 佳彦
概  要 臨床においてカルバペネム系薬は重篤感染症治療の要として使用されている。その一方で、腸内細菌科細菌の中で免疫力の低い人に感染する Enterobacter spp.がカルバペネム系薬に耐性を獲得して治療を困難にしていることから問題となっている。本研究では、関東にある複数の医療施設より分離されたカルバペネム耐性E.aerogenesおよびE.cloacaeの合計23株について耐性機構の解明を試みた。その結果、いずれも染色体性AmpCβ-ラクタマーゼの過剰産生または外膜蛋白ポーリンの減少/欠失と考えられた。本研究では検出されなかったが、プラスミド性カルバペネマーゼ産生菌は、高度に耐性を示すことが多く、その産生遺伝子をコードしたプラスミド(菌特有のDNA)は菌属を越えて伝達されることから、今後も動向調査や監視していく必要性があると考える。
H28-3-27
題  目 中部山岳地域における地衣内生菌の多様性調査および共生藻との相互作用の解明
研究者 升本 宙
概  要 近年、生きた地衣類の内部に生息する菌類の存在が明らかとなっており、これらは「地衣内生菌」と呼ばれている。地衣内生菌の研究は世界的にも発展途上であり、分類学的実態、生態学的実態の大部分は未解明である。本研究では、長野県上田市菅平高原において、本邦初となる地衣内生菌の多様性及び地衣類共生藻類との関係について調査することを目的とした。調査の結果、2種の地衣類(緑藻を共生藻とするキウメノキゴケ及びシアノバクテリアを共生藻とするツメゴケ属の一種)から計381菌株の地衣内生菌を分離することに成功した。最も多く分離されたクロサイワイタケ科菌類の大部分は、両地衣類から分離されたことから、これらの地衣類の共生藻に対する選好性は低いと考えられる。一方、次いで多く分離されたSarea属菌と未記載種sp.1はキウメノキゴケからのみ分離された。この2 菌群は、緑藻を共生藻とする地衣類に選好性を持つ菌類である可能性が示唆された。
H28-3-28
題  目 SHARP-2 と A T B F 1 との相互作用の解析
研究者 三島 歩実
概  要 ラットenhancer of split-and hairy-related protein-2(SHARP-2)は、TGF-β による細胞増殖抑制に関与する可能性が考えられている。ラット肝cDNAライブラリーからSHARP-2 と相互作用するタンパク質をスクリーニングしたところ、肝がんマーカーα-fetoprotein(AFP)遺伝子の転写抑制因子であるAT motif-binding factor-1(ATBF1)がクローニングされた。SHARP-2とATBF1の物理的相互作用を解析したところ、ATBF1の3,030-3,379 までのアミノ酸配列を含むクローンであるSL-23は、SHARP-2の301-355のアミノ酸配列と相互作用することが明らかになった。 ATBF1 は濃度依存的にmAFP遺伝子プロモーターの活性を低下させる傾向が見られたが、SHARP-2 は、mAFP 遺伝子プロモーターと対照の SV40 のエンハンサー/プロモーターの活性に対して有意な低下がみられた。 また、ATBF1とSHARP-2をコトランスフェクションしたところ、両者の機能的相互作用の可能性が示唆された。
H28-3-29
題  目 ゲノム編集法を用いた自閉症分子メカニズムの解明
研究者 森 琢磨
概  要 本研究計画は、CRISPR/Cas9法を用いたゲノム編集法をin vivoで実現しようとするものである。CRISPR/Cas9法をin vivo動物で実現するために、子宮内エレクトロポレーション法を用いてプラスミドを導入した。まず、子宮内エレクトロポレーション法によるCRISPR/Cas9の実現可能性を精査するために、神経細胞で豊富に発現する-actin遺伝子を対象として実験した。CRISPR/Cas9に必要なプラスミドを子宮内エレクトロポレーションで導入し、導入された神経細胞からsingle cell PCR法で遺伝子欠損を判定した。その結果、およそ3割の細胞で遺伝子欠損が生じていることを確認した。さらに、GFP供与プラスミドを同時にエレクトロポレーションすることで、β-actin遺伝子にGFP遺伝子を融合したβ-actin-GFP遺伝子を導入することに成功した。これらの成果をScientific Reportに発表した。これらの結果をもとにCASK遺伝子を欠損した神経細胞に対するシナプス入力を解析した。その結果、プラスミド導入細胞のおよそ2割でシナプス入力様式の異常が観察された。
H28-3-30
題  目 長野県の地すべり地におけるNaC1型地下水がすべり面粘土のX線回折強度に与える影響
研究者 山ア 晴香
概  要 長野県や新潟県など新第三系堆積岩地すべり地帯では、しばしば高濃度NaCl型地下水が湧出する。粘土鉱物のX線回折試験結果は、水溶液の濃度によって変化する。しかし、既往研究ではその統一的な成果は得られていない。 本研究では、長野県の地すべり地におけるNaCl型地下水がすべり面粘土のX線回折強度に与える影響を明らかにすることを目的とし、高純度粘土鉱物試料および天然の地すべりのすべり面粘土から採取した試料に対し、間隙水を純水だけでなくNaCl水溶液(濃度c=0-1規定)としてX線回折強度を測定した。 その結果、水溶液の濃度変化に伴いX線回折強度は強くなることが明らかになった。今後、さまざまな地すべり地に湧出するNaCl型地下水の濃度と粘土鉱物のX線回折試験装置を用いた分析を行うことで、混合粘土鉱物におよぼすNaCl間隙水効果を明らかにできる可能性を有しているといえる。
H28-3-31
題  目 担子菌系酵母 Krieglsteinera sp. の菌寄生に関する研究
研究者 山田 宗樹
概  要 担子菌系酵母は接合により菌糸に姿を変える、特殊な生活史をもつ酵母である。酵母から菌糸に姿を変えるのは各ステージが生活史において異なる役割をもつためと考えられるが、その役割はほとんど明らかでない。本研究は、動物糞に発生し、菌糸を介したフンタマカビ属菌への寄生が疑われる酵母 Krieglsteinera sp. を用い、菌糸ステージの生態解明を目指した。まず酵母から菌糸を誘導するため、培養条件を検討した。その結果、糞抽出液培地上かつ宿主との共培養で、最も高い交配率を示した。共培養時に両菌は互いに菌糸で接触し、有性生殖が誘導された。接触部位の菌糸内部には、寄生構造と言われるオルガネラが確認され、菌寄生が強く示唆された。以上の観察を踏まえ、Krieglsteinera sp. の酵母細胞は、糞という基物で宿主 を察知すると交配により菌糸化、寄生を行う菌であると考えられる。また分子系統解析により、同じ寄生様式をもつ種との類縁生が示され、生活史と系統の関連が示唆された。

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