好事家から問い合わせを受けた「鋤柄」という苗字

 去年の11月、東 京大田区のTさんという方から往復はがきで「自分は苗字研究をしていて取り寄せた電話帳で見たところ、大変珍しい苗字とお見受けしましたが、読み方をお尋 ねしたい」旨の問い合わせが届きました。家族は「何か悪用するのでは」と警戒気味、電話帳で見てはがきを送っている以上、これ以上何か知られる心配もない からと簡単な返事を書いて送ったところ、すぐに送られてきた礼状には、同じようにアンケートの返答があった珍しい苗字の読み方の紹介と自費出版した苗字の 読み方をまとめた本を希望があれば無料で送る旨書かれており、送ってもらうことに。

 間もなく届いたの は『私家版 珍性・難訓姓読み方実例集―8000人の回答から』という名の200ページ弱の冊子。中を見るとずらりと並んだ苗字に、振り仮名が降ってある 苗字の読み方だけで1冊の本になっている物。とにかく凄いのは全て本人にはがきで問い合わせて返答をもらったもののみ掲載しているということでまえがきに は「都道府県別に苗字の分布状況を調べるために電話帳から一つづつ苗字を拾い出し、都道府県ごとにまとめ、その中で読めない苗字については24年前から往 復はがきで問い合わせるという作業を続け、今までに8000通の回答をいただいた。その倍以上の往復はがきを出してます」という金も時間もたっぷりかけた 執念の力作。

 鋤柄という のは字そのものが難しいという性格の苗字。珍しいことは間違いないものの、ここに載っている著者が“珍しい”と太鼓判を押したものに比べれば赤子同然。同 じ「鋤」を使った苗字でも熊本県に「鋤馬把」(すきまわ)なんて苗字もあるし、同じページには「霊」(みたま/奈良県)、「髭分」(ひげわけ/東京都)な ど「これが苗字?」と信じられないものが満載。趣味もここまで来れば立派な学問の領域です。