『銀河英雄伝説』で良く質問を受けるのはキャラクターについてですので、一度書き留めておこうかと思います。 

 路線として「美形キャラ」には違いないのですが、いわゆる「売れ線」を狙った「アニメアニメした」キャラクターにしなかったつもりです。

 そうした方向性を打ち出したのにはいくつか理由があります。

 まず、『銀河英雄伝説』のキャラクターは「ものを考えるキャラクター」だということです。
 動物の赤ん坊がかわいく見えるのは目が大きいからだといわれています。記号論的に目の大きいキャラクターはかわいく見せやすいので、大概のアニメのキャラクターは「安易に」目が大きいのですが、どうも目が大きいキャラクターを見ると頭の容積の中を目が大きく占めてしまって、脳が入っている気がしません。(道理で何も考えていないようなキャラクターばかりが跋扈しています)
 『銀河英雄伝説』のキャラクターはそういう感じにしたくなかったのです。 また、『銀河英雄伝説』は当初からいずれは海外にも送り出したいと思っていました。昨今の「ジャパニメーション・ブーム」とやらで、最近は海外でも日本の「アニメアニメした」目のバカでかいキャラクターも大手を振って罷り通っているようですが、ちょっと前まで海外ではあの手のキャラは「気持ち悪い」と言われていたものです。

 そんなこんなも踏まえて、基本的に「骨格」を意識した「美形」という路線を採りました。

 それは芝居も含めて「リアル志向」ということです。演出的にも「洋画の実写のような感覚」を目指してもらいました。地に足をつけた演出と言ってもいいかもしれません。世界設定が「SF」ですから、何でもありなのですが、そうやってしまえば荒唐無稽になり、『銀河英雄伝説』が持っているテーマ性を壊してしまうと考えたからです。第2期のオープニングに掲げた『時は移り、処は変われど、人類の営みに何ら変わる事はない』というのが基本姿勢です。大きな虚構を成立させるためには地道な真実を積み重ねていかなければいけないのです。
 それは全体に地味な印象を与えかねないのですが、結果的に「流行り」を追わず、「子供だまし」や「虚仮脅し」を極力廃したことが、息の長い作品になり得たのではないかと思っています。
基本的に「大人の」鑑賞に堪える作品を作ろう、そう思っていました。キャラクターのデザインの方向性もそうした方針に則ったものだということなのです。

 そういう方針の下、起用したのが奥田万つ里さんです。その前に関わった仕事でどういう絵柄を描かれる方か承知していましたので、この作品にはピッタリだと思いました。本質的にデッサンが確かで、なおかつ少女マンガ的美形キャラへの志向性もあり、何よりキャラクターに陰影というか内面性のようなものが感じられるのが素晴らしいと思っていました。
 実際、ラインハルトとヤンは殆ど何も注文を出さず、キャラクターの説明だけで一発で決定稿が出ています。(因みにラインハルトは最初「皇帝」となった時のキャラクター=本伝3期途中からの髪の長いキャラが最初に描かれ、それを若くするという作業で当初のキャラクターが作られましたが)
 因みに脚本の首藤さんは「ヤンってこんなにいい男かぁ?」と首を捻っていました。もっと情けないキャラかと思っておられたようで………(苦笑)

 その他のキャラクターも殆ど1稿でOKが出ています。キルヒアイスが特徴を掴みにくくて数稿したのと、ミッターマイヤーが当初老け気味だった(図1→)のを若くしたぐらいです。 

 ちょっと面白いのはロイエンタールで、一旦決定稿が出ていたのですが、奥田さん本人が納得いかなかったようで自発的に再考して来たのが今のキャラです。

 最初のキャラクター(図2)も没にするのは勿体なかったのでフェルナーとして陽の目を見ました。

 他にもプレゼンテーションの段階から、
実際の制作の段階で多少変わったキャラ
はいます。
 アッテンボローは最初もっと「やんちゃ」な感じのキャラ(→図4)でしたし、

 ポプランは逆にもっとシャープな感じでした。
(←図5)


 メックリンガーも髪型が変わっています。(図6→)
 その他、『わが征くは星の大海』には出ていないキャラクターでしたが、プレゼンテーションの段階で作ってあって、本編でもそのまま登場しているものもかなりあります。ユリアン、ヒルダ、フレデリカ、ジェシカ、シェーンコップ、ケンプ、キャゼルヌ一家、シトレ、ビッテンフェルト、カリン、ドミニク、ケッセルリンク、メルカッツ、ルビンスキー………などなどです。
オーベルシュタインの犬ってのもありました(笑)
  それはともかく『わが征くは星の大海』終了後、シリーズ化が決まった段階で困ったことになりました。他の作品と重なって、奥田さんが降りてしまったことです。

 
 折角シリーズ化が決まったのに肝心のキャラクターデザイナーに降りられてしまって、どうしようかという話になった時、プロダクションの方から出てきたアイデアは複数のデザイナーを立てるというものでした。
 ご存知のように『銀河英雄伝説』の登場人物は非常に多く、一人のデザイナーの「引き出し」だけでは描き切れない虞れはもともとありました。

 そこでメインのキャラクターはこのまま行くとして、無数に出て来る脇のキャラクターは、複数のデザイナーに割り振ったらどうか、というのです。
 ただ、そこで出た問題は個々のデザイナーの皆さんがビッグネームだけに詳しい打ち合わせや、個々のキャラクターの「読み込み」は期待できない、ということです。
 そこで方法論として「例えば俳優で言えば誰それ」と言ったモデルを特定し、そのイメージと簡単な説明文だけでキャラクターを起こしてもらうという手段をとりました。
 この方法はキャラクターの幅を広げるのには役立ったのですが、結果として『銀河英雄伝説』のキャラクター世界というか絵柄の範疇に合わせる為の作業に作画監督が苦労することになりました。元の各デザイナーの持ち味を全部消してしまっては原案をもらっている意味がないし、かと言ってその持ち味を前面に出すと既にできている『銀河英雄伝説』の世界から外れるし………というわけです。 

 そこで途中からは完全に割り切り、特定のモデルを想定して、ある種その「似顔絵」をベースにキャラクター化する、という方法にシフトしました。
 これだとデザイナーの「引き出し」に関わらず、リアルなキャラクターを基調にすることで、微妙な描き分けが可能なのです。
 つまり漫画的デフォルメをすると、顔の各パーツがパターン化し、その順列組み合わせの分しかキャラクターが作れないのを、リアル基調にすると微妙な差でもキャラクターの差別化の基準にできるということです。

 もちろん完全に「似顔絵」にしてしまっては「肖像権」の問題とかもありますので、あくまでキャラクターを掴む上でのイメージです。
だから誰々のモデルは誰、というのを公表すると「なるほど」と思われるか、「え〜、どこが?」と思われるか………。

 面白いので、いくつか例を挙げましょう。

 先日(※これを書いた頃)マーロン・ブランドの訃報がありましたが、実はブラウンシュヴァイク公のイメージモデルでした。そう言われて「なるほど」と思うか、「どこが?」と思うか、受け取り方は様々でしょうが、まぁその程度の「モデル」です。キャラクターのイメージを固定する為の手がかりというところでしょうか。 

 ファンの方にはそれぞれの思い入れがあるでしょうから、当初はキャラクターのデザインへの反発もありました。

 「私のロイエンタールはあんなじゃない!」と言って来たファンの方もいました。そのことを一度田中先生にお話しすると、「『私の』ならまだマシな方で、『本当のロイエンタールはあんなことはしない!』という手紙が(原作者である田中先生のところへ)来たこともあるが、『すみません、私は“本当の”ロイエンタールに会ったことがありませんので』と応えたものです」と笑っておられました。

 まぁ、そんな極端な例はともかく、当初その手の“文句”が多かったのはポプランのデザインでした。上で掲載したように、初期デザインはもうちょっと精悍な感じだったのを、わざと少し崩したのですが、それに対して「もっと美形な筈だ」という意見が多かったのです。

 ただ、これには制作側にも明確な意図があって、『銀河英雄伝説』の世界での「モテモテ男」のベスト3はロイエンタール、シェーンコップ、ポプランでしょうが、原作中でポプランに関しては「ハンサムだ」という類の表現はないのです。ロイエンタールに関しては「そこに立っているだけで女性を惹きつける」という表現がありますから見た目も(ちょっと危険な感じの)美形でしょう。シェーンコップの場合は男くささというか、ジェームス・ボンド的なかっこ良さと考えます。しかしポプランの「モテ方」は女性に対してマメであることの成果だと思うのです。当時「日本一のモテモテ男」と言われていたのは明石家さんまでした。ポプランはさんま的な「モテる男」と解釈したのです。(だからといって「ポプランのモデルはさんま」というほど短絡的なものではありませんが)

 ついでにシェーンコップで思い出したのですが、ジェームス・ボンド的と言うことで当時の007のティモシー・ダルトンを個人的にイメージしていました。しかし、それを伝える前に上がってきたのが今のキャラです。伝えるまでもなく同じようなイメージを持っていたのかと安心し、そのままOKにしたものです。
そのように、特にこちらがイメージを指定しないで描かれたものもかなりあります。その場合逆に「誰のイメージ?」と訊いたものもありますし、こちらが勝手に「誰々かな」と思っているものもあります。

 前者の例でラインハルトは「ダイアン・レインを男にした」と言う事ですし、ビッテンフェルトは「プロレスラーのダイナマイト・キッドの髪を伸ばした」のだそうです。
後者は例えばキルヒアイスは「ロブ・ロウかな?」とか、メルカッツは「ブロンソンか?」と思っていますが確認していません。笑えるのはシュタインメッツのキャラが上がった時に石黒監督が「西郷輝彦?」と訊いて、スタッフに妙にウケていました。

 プロレスラーと言えば、オフレッサーのイメージモデルは“キング・コング”ブルーザー・ブロディだったのですが、丁度オフレッサーが死ぬ話数を製作中に刺殺されてしまい、愕然としたものです。

 と、まぁキャラクターの話はこの位で。

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