■ 1_February -the 1st mission ■ (4)
明けて、約束の日。姫がよこした新品のスーツを着て、午後3時きっかりに、俺は奴の事務所の入っているビルに到着した。
5階建ての4階が奴の事務所で、他の階には税理士やら司法書士やらの事務所が入ってる。ってことは、奴もわりとまともに経営コンサルやってんのかな…。
事務所のドアをノックする。入ってすぐのところには受付の女が座っていて、奥の部屋は見えないようにパーティションで細かく仕切られていた。その仕切り壁には高価そうな絵が架かっている。
俺は受付の女に、昨日ミナに作ってもらった名刺を出した。
「松橋と申します。所長さんと、3時にお約束をいただいているのですが。」
女は俺の名刺を持って仕切りの奥に引っ込んだ。と、すぐに崎元がニコニコと出てきた。
「やあ、よく来てくれたね。さあ、こちらへ。」
「ハイ。失礼します。」
崎元は俺を連れて奥に入ると、来客用のソファを勧めた。そこに腰を下ろすと、さっきの女が茶を運んできて、すぐ戻って行った。
「先日は大変失礼しました。あの…クリーニング代ですが。」
俺はスーツの内ポケットから茶封筒(中には3万入ってる)を取り出して、テーブルの上に置いた。
「いや、君、いいんだよ、そんなことしてもらわなくて。それより、君もあのとき怪我しなかったかね。」
崎元は茶封筒に触れもせず、俺に笑いかけた。
「ハイ。大丈夫です。」
「それで…私に相談したいこととは何かね。」
ソファにでっぷりと寄り掛かり、俺を見下ろすような格好で崎元は訊いてきた。
「ハイ。私の会社は県外に本社があって、こちらの営業所は小さい事務所だけなんですが、営業成績が上がらず…上司に何かプランを持って来いと言われたんですが…」
適当なことを口から出任せに喋る。
「なるほどね。経営とはちょっと違う相談だね。」
「でも、経営のプロの方のご意見をうかがえたらと思いまして。」
崎元はスーツのポケットからスマフォを取り出すと、俺の名刺を見ながら何か打ち込み始めた。
ヤバい、もしかして、このでっち上げ会社のことでも調べようとしてんのか?しょっぱなバレちまうか…失敗した…。でもそれならそれでやりようはある…と思っていたら。
「なるほど、業務用の食品卸の会社なんだね?」
崎元はスマフォを見ながらうなずいている。
…へっ?どーなってんだ?俺は平静を装いながら奴の手元を見た。会社のホームページみたいなのが表示されてる。なんでだ?
…俺はこういう方の仕事だから…昨日、ミナが言ってた。じゃあ、これもミナが作ったのか?1日で?!だとしたら…アイツすげえんだな…。
「まあ、営業はまともにぶつかって行ったって成果はなかなか上がらないからね。裏から攻めた方がいいこともありますよ。」
崎元はニヤニヤしながら俺を見た。その目付きに、俺はハッとした。
…あ、この空気。すげぇ身に覚えがある。
こいつ、堅気じゃない。まともな経営コンサルなんかやってねえ。
俺は、だけどそれには気付いてない振りで、
「そんなものですか…」
と、うつむいてみせた。そして、上目遣いに、ねっとりとした視線を奴に送りながら、
「いろいろ…教えていただけると…嬉しいです。」
ちょっと恥ずかしげに言ってみた。下唇をちょっとだけ噛んで、不安気な顔をして。
…な?テメーこーいうの大好物だろ?俺を誘え。次の約束はベッドの中だって。
崎元は、ふふっと笑うと、
「そうだなぁ…。じゃあ、近いうちに食事にでも行こうか。」
と誘ってきた。俺は、
「ハイ…」
と目を伏せてみせた。
その日の夜。多分、何時に電話しても姫は対応するんだよな。10時過ぎに電話してみた。案の定、1コールで電話はつながった。
「どんな感じ?」
「なんだよ、あの崎元とかいう野郎…まともな奴じゃねえんじゃねえか。」
「ああ…やっぱりそう?」
姫は感心したように声を上げた。
「アンタ、やっぱしこういう方に詳しいわね?」
俺はそれには答えず、
「で、アイツなんなんだよ。」
と訊いた。
「こないだのアンタと同じよ。ウチの会社のことかぎ回ってんのよ。」
「目的も…同じ?」
「多分ね。」
「分かった。もう、そういう真似できねえようにすりゃいいんだな?」
姫は、うん、と相づちを打って、
「こないだの荷物の中にマイクとか入ってたでしょ、あれ使って。スイッチ入れるだけで使えるみたいよ。」
「みたい…って。」
「水無月が言ってたの。」
へえ…やっぱしアイツ、機械に強いのかな…
「そういえば、俺の名刺に書いてあった会社のホームページみたいなやつ…」
「それも水無月がやってくれたの。」
やっぱりか。
「でも、あの子は実戦には向かないのよ。」
一瞬、間があって、姫は改めて、
「ま、そんなことはアンタには関係ないから。」
と言うと、また連絡を寄越すように念押しして電話を切った。
2日間は誰からも何の連絡もなかった。俺はホテルの部屋でだらだらと過ごしていた。
でもさすがに、そろそろ崎元から連絡が来ないと…次の手が打てねえし、と言ってこっちから連絡したら、裏があってがっついてるのが丸分かりだから、じっと待っていた。
崎元からの電話は、そんな夜にかかってきた。
「松橋くんかね?」
「ハイ。」
「今から、この間のホテルのバーに来れるかい?」
一瞬、携帯を耳から離して時間を確認する。11時…ってことは泊まるつもりか。
「ハイ。大丈夫です。」
電話を切ると、俺は大急ぎで身支度した。スーツ、髪、ひげそって、歯みがき。
戦闘準備完了。スーツのポケットにはマイクも入ってる。
バーに着くと、崎元はカウンターの真ん中でひとりで呑んでいた。
「お待たせして申し訳ありません。」
「いや、呑みながら待っていたからね。さあ、行こうか。」
崎元は椅子を立つと、俺の肩に手を置いた。
「部屋を取ってあるんでね。ゆっくり話そう。」
やっぱりそう来るよな。分かってたよ。俺はうつむきがちに崎元の後について店を出た。バーテンダーが訳知り顔で俺たちを見送る。
店のすぐ前はエレベーターホールで、エレベーターを待つ間、崎元は俺を全身舐めまわすようにじろじろと見た。胸くそ悪い。でもこれからこいつの相手をしなきゃ。
エレベーターに乗り込もうと、崎元が俺に背を向けた瞬間、俺はポケットの中のマイクのスイッチを押した。多分、どこかで誰かが聞いてる。これから先のことを。
崎元は10階でエレベーターを下りた。俺も後に続く。
そうして、奥に近い部屋のドアを開けて、俺を招き入れた。ドアを閉めると同時に、奴は背後から俺を抱きしめた。うなじに唇を当てて、すうっと匂いを嗅いでいる。
「あっ…あの…?」
とまどったような声を上げてみせる。
「君だって、こうなることは分かっていてついてきたんだろう?」
スーツの上着のボタンを外され、ワイシャツの上から乳首をつままれる。
「…あ…あっ…」
少しのけぞると、奴はさらに俺の耳の裏を舐めてきた。それから左手で俺の身体を支えながら、右手はズボンの上を探っている。
「そっ…そんなところを…」
「でも君、もう硬くなってるじゃないか。」
ニヤけたような声で崎元は言った。そりゃ、男は誰だって触られりゃそうなるって。
俺はされるがまま、ちょっと過敏なくらいに喘いだ。
崎元は俺をベッドに押し倒すと、ズボンを脱がせて、自分も脱いだ。
「さあ、私のも舐めるんだ。」
なんだよー、風呂にも入らないで、即始まりかよー。まぁしょうがねえなあ。俺は奴のモノをしゃぶってやった。良さそうなところを、わざと音を立てて、執拗に舐めまわしてやった。崎元は俺の頭を掴んで腰を振ってやがる。
「ああ、もう出そうだよ。」
俺の頭をすぱっと外すと、そのまま後ろから俺に乗ってきた。
「あっ…ん…んっ…」
「すごいね、君、こんなに締め付けてくるなんて…」
崎元はうわずった声で言うと、何回か動いただけで果てた。早漏かよ。
「僕も…こんなになったの初めてで…」
しおらしく赤面しながら言ってみた。
「いや、君、すごくいいよ。営業も、こうやって取ってきたらいいんだよ。」
枕営業を勧める経営コンサルってどうなの…
「私のところに営業に来る子にもね、こうやって教えてあげてるんだよ。」
…言ったな?セクハラ、パワハラ発言、言っちゃったな、コイツ。
俺は内心ガッツポーズで、でも顔は呆然とした感じで崎元を見つめた。
「さて、私はシャワーを浴びてくるよ。」
崎元は全裸のまま、風呂場に向かって行った。
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