■ 1_February -the 1st mission ■ (6)


 ミナがめちゃくちゃに車を走らせて奴らをまいた結果、俺たちは山のふもとにある小さなラブホに入って一晩やり過ごすことになった。
「姫にもバレてんだろうな、俺たちがここにいること。」
 携帯にはGPSが付いてるから…最初のとき、姫の配下に言われた。
「いや、俺の携帯のGPSはダミー発信させてるから。」
 こともなげにミナは言った。
「はあ?なんだよ、それ。」
「姫には分からないとこでいろいろ作業したいこともあるんだよ。」
「でもそれ、姫にバレたらヤバいんじゃねえの?」
 俺は煙草に火を点けた。
「テメー、自分で言ってたじゃねえか。姫を甘く見ると後がヤバいって。」
「甘く見てるわけじゃねえよ。だからちゃんとしたダミーを…」
「バカか。」
 ソファに深く身体を沈めて、俺はミナを見た。…何考えてんだろ、コイツ。
 ミナはテレビをつけると、だらだらとザッピングを始めた。
「なあ、キサラ。」
 テレビを見たままミナが言った。
「おまえ、男と寝るのは仕事だからだって言ってたよな。」
 …いきなり何を言い出すんだっ。
「それが何?」
「どうしてそんなことできるのかと思って。」
「どうしてって…」
 なんでコイツとこんな話してるんだか。
「俺みてーなバカでチビでガキみてえなツラの奴はそーいうのが向いてんだよ。」
「キサラはバカじゃねえだろ。」
 ミナはまだテレビから目を離さない。俺を見ないようにしてるみたいに。
 …あ、もしかして。ふたりでラブホになんか入っちまったから、コイツ…
「ミナ。」
 俺は煙草を消して、ミナが座ってる椅子の背後に立った。
「テメー、もしかして、俺の手管を試してみたいとか…思ってる?」
「ばっ…」
 慌てて振り返ったミナの焦った顔。こんな顔、初めて見た。
「いいよ。1回だけならな。よーいスタート、で、俺はいつでも始められるんだ。」
 耳元でささやく。
「ただし、勘違いすんなよ。これは俺の手管で、誰にでもやってることだからな。」
「分かってる…」
 なんかコイツ、すげーキンチョーしてやがる。こんなのが相手ならいつでもちょろいんだけど。
「…じゃっ、」
 俺はその姿勢のまま、ミナの背後からネクタイを外した。耳元でささやく。
「テメー、なんでいつもこんなキッチリとネクタイ締めてんだよ。」
 それから、ワイシャツのボタンを上からゆっくりひとつずつ外して、胸元に手のひらを差し入れた。ミナがまた身体を固くしたのが分かった。
「なあ…」
 俺はミナの正面に回って、座ってる脚の間に立て膝になって、奴の首に腕を回した。上目遣いのねっとりした視線。
「いつから?俺のこと、そんな目で見てたの?」
 人差し指の腹で、奴の唇をなぞる。そっと、柔らかく。何度も繰り返し。
 それから頬を両手で包んでキスした。舌で唇をなぞったり、上顎を舌先でくすぐったり。
 ミナが俺を抱きしめた。でも、腕が震えているのが分かった。
「男と寝るのなんか初めてなんだろ?いいよ、俺が全部やってやるから。」
 唇を付けたままささやくと、ミナは急に立ち上がって、俺をお姫さまだっこすると、ベッドに押し付けた。おお、予想外の行動…。そのまま覆い被さって抱きしめてきたけど、それ以上どうしたらいいのか分からないみたいだった。
「バカだな、テメーは、ホントに。」
 俺はミナのワイシャツを全部脱がせた。そして、
「俺のも、脱がせて?」
 甘えた声。上目遣い。紅潮した頬。熱い吐息。濡れた唇。大体これでイチコロなんだよな。
 ミナは震える手で、ちょっと乱暴に俺の服を全部脱がせた。律儀だなぁ。なんか可愛い奴。
 俺はベッドから起き上がって、逆にミナの腹の上に馬乗りになった。
 唇に、耳たぶに、頬にも首筋にも胸元にも、ありったけのキス。ミナは小さくうめき声を上げた。
「なあ、キモチイイの?俺に…こんなことされてさ…」
 そして、ズボンの上から奴に触った。
「こんなに…硬くしちゃってさ…」
「…やめろよ…」
「なんで?俺の手管を試してみたかったんだろ?」
 俺はミナの下半身も全部脱がせて、奴のモノを口に含んだ。舌先で舐めまわして、また口の中にすっぽり包んで。
「…うっ…」
 ミナの指先が俺の頭をまさぐる。
「ガマン…すんなよ。」
 言った瞬間、ミナが身体を離した。すごい力で俺を押し退けた。
 …ん?なんでだ?ちょっとポカーンとしてしまって、ミナを見ると、奴は膝を抱えて顔を真っ赤にしてうつむいている。
「なんだよテメー、どうしたんだよ…」
 奴の腕を掴んで、
「別に、俺の口の中でイッちゃったっていいのに…」
 言い掛けたら、急にミナは俺を抱きしめた。
 う〜〜〜ん…イマイチ行動が読めない…。
「キサラ。」
 なんでそんなせっぱつまった声なんだ?
「おまえ、いっつもこんなことしてんだな。」
「はあ?」
「ターゲットのジジイと、いつもこんなこと…」
「だったら何だってんだよ。」
 ちょっとイラッとしてきた。喧嘩売ろうとしてんのか、コイツ。
「イヤだ。」
 はあ〜?
「キサラが他の奴とこんなことするの、俺はイヤだ。」
「おい、テメー、勘違いすんなって言っただろ?」
 俺は腕に全力を注いで、ミナの腕の中から身体を離した。
「これが俺の手管なの。今、俺がテメーにしたことは全部計算だし、なんの感情もなくても、いっくらでもできることなんだよ。」
「だから、それがイヤだって言ってんだろ!」
 急にミナが叫んだ。大声出すなよ、びっくりすんだろ。
「テメーがイヤだったってなんだって、これが俺のやり方だし。テメーの許可なんか必要ねえんだからな。大体さ、」
 俺はベッドから下りて、掛けてあったシーツを身体に巻き付けた。
「何で急にそーいうこと言うわけ?」
 意味分かんねえ。ソファのテーブルまで戻って、俺は煙草に火を点けた。
「まさか、俺に舐められて情が移っちゃった?」
 ちょっとイヤミかな。でもミナは、びっくりするくらいハッキリした声で言った。
「舐められたから、じゃねえよ。」
 …なに?え、どういう意味?俺は雷に撃たれたみたいにその場で固まった。
 まさか、嘘だろ。
「おい、ミナ。」
 平静を保たなくては。俺は努めて冷たい声で言った。
「テメー、マジになるんじゃねえよ。俺は全っ然何っとも思ってねえんだからな。」
 でも最後の方、何で俺、声が震えそうだったんだ…。
「ハイ、もうこれお終い。早く服着ろよ。」
 俺はソファにどかっと座って、ついたままのテレビを眺めた。
 今はまともにミナを見ることができない。どうしたらいいのか分からない。
 やたらとぶかぶかと煙草をふかして、テレビの内容なんかちっとも頭に入ってこない。
 煙草を消して、目の端でちらっとミナを見ると、奴は泣きそうな顔でパンツを穿こうとしていた。
 思わず吹き出してしまう。なんだコイツ、やっぱり可愛い奴。
「テメーなんだよ、そのツラ。」
「…うるせえな。放っとけよ。」
「ハイハイ。ホラ…」
 俺はベッドの上に戻ると、ミナの顔を手のひらで挟んで、ちゅっとキスした。
「バカ。おまえは誰とでもいくらでもこーいうことするんだもんな。」
「そうだよ。分かってんじゃねえか。」
 …そんなツラすんなよ…
「分かったらもう寝ろ。明日朝イチでここ出るからな。」
「ああ。」
 ミナは身体に布団を巻き付けて、俺に背を向けてベッドの端っこで横になった。
 俺は…とりあえずシャワー浴びようかな。それと、折角ベッド空けてくれてるけど、ソファで寝るから。
 もう、テメーにヘンな気を起こさせないようにな。


 朝6時。俺はベッドの端で丸まって寝ていたミナを起こすと、急いで身支度をさせてホテルを出た。
 車が市街地に入ったころ、姫に電話してみた。
「何かあった?」
 姫が、ちょっと眠そうな声で電話に出た。俺は詳しいことは省いて、ただ崎元に拉致られそうになったことだけ話した。
「もういいだろ。俺と奴の会話は水無月が拾ってくれてんだし。」
「分かった。水無月に報告書出させるわ。あとはあたしの仕事だから。」
 俺は、隣で車を運転してるミナをちらっと見た。
「ところで、アンタ今どこにいるの?」
「…それは…」
 言えない。今、ミナと一緒にいることも言えない。
 口ごもる俺に、姫は溜息を吐いて、
「くれぐれも、余計なことはしないことね。」
とだけ言うと、電話を切った。


 それから数日後。
 崎元はいなくなってしまったらしい。事務所のあるビルをこっそり見に行ったけど、奴の事務所はもぬけの殻だった。
 どういう経緯かは分からないけど、姫が、どこかに何か手を回したせいで、奴はこの街にいられなくなる程のダメージを受けたみたいだ。やっぱり姫は怖い女だ…。
 でも一応…仕事の成果は上げたことになった。
 夜、姫のオフィスに呼ばれた。マイクと偽の名刺を返却する。
「アンタ…水無月と何かあったの。」
 姫はデスクに頬杖をついて、俺をじっと見た。
「別に、何も。」
 俺はそっけなく言った。あれ以来、ミナとは会ってない。向こうからも何も言ってこないし。
「あのね。」
 姫は立ち上がると、俺を睨むようにまたじっと見た。
「アンタはアンタの仕事をすればいいの。余計なことしないで。水無月と仲良くする必要もないの。」
「分かってるよ。」
 俺は姫を見返した。姫の目の奥に、深い闇が見える。思わず俺は目を逸らした。
 この闇を、俺は知ってる。そこから抜けられないことも。
 だけどミナは…分かってるんだろうか。この深い闇の底を。





the 1st mission was completed;

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