■ 3_November -the 3rd mission ■ (2)
会議室を出て階段で1階に上がり、ちょうど照明の灯いてない廊下の隅で、俺は様子を伺った。後ろに託弥を隠して。
非常用出口のランプが、蛍光灯が切れかかってチカチカしている。あそこのドアの鍵は、ただつまみを回すだけの簡単な作りだったはずだ。今の時間ならまだセキュリティも作動してない。
「行くぞ。」
振り返ると、託弥は小さくうなずいた。
ダッシュしてドアまで、鍵を開けて外に出た瞬間から、俺たちは夜の街の中に駆け出した。
行き先はあらかじめ決めていた。繁華街の寂れたラブホ。入口が裏路地に面していて気を遣わず入れる。古い細かい路地を縫って、もし途中ではぐれても入口で待ってるように、託弥には言っておいた。
今の俺たちはただの逃走者だ。だけど俺は、絶対に託弥を離さないと心に決めていた。
息を切らせてホテルの入口に着いたとき、託弥は俺の手をきゅっと握った。俺はその手を引いて、中に入った。
部屋に入ってまず最初にすることは、盗聴機やカメラがないか調べること。これは託弥の専門なので、俺は奴の言うとおりにコンセントやベッドの下などを調べた。
ひととおり見て、俺たちはやっとソファに腰を下ろした。俺は煙草に火を点けた。
託弥はまだちょっと緊張しているみたいだった。
「一応、姫に電話しとくな。」
託弥はぎょっとした顔で俺を見た。
「大丈夫。姫に何を言われたかは知らねえけど、これはアイツも分かってることだから。それに…」
俺は託弥の腕をぎゅっと掴んだ。
「テメーのことは俺が守るって言っただろ。」
託弥の目をのぞき込む。託弥も俺の顔をじっと見てうなずいた。
姫の携帯に電話すると、1コールめですぐ姫が出た。
「…如月?」
「おう。水無月は俺がもらったぜ。」
「そう…。今どこにいるの?」
「それは言えねえけど。GPSで分かんだろ、どーせ。」
「まあね。また連絡するからその携帯捨てないでよ。」
「んー、分かった。」
「水無月はどうしてんの?」
「どうもしてねえよ。」
託弥を見ると、心配そうな顔で俺を見てる。
「さっきも言ったけど、コイツは俺がもらったからな。連れ戻そうとかしたら徹底抗戦するぜ。」
「あたしはそんなことしない。」
姫はいやにキッパリサバサバした口調で言った。
「とにかく、考えてることがあるから、また連絡する。それまでは下手に動かないで。」
電話を切って、携帯をベッドの枕元に放り投げて。俺は託弥に向き直った。
「大丈夫だ。」
託弥はまだ不安そうな落ち着かない顔をしている。
「大丈夫だって言ってんだろ。そんなツラすんなよ。」
俺は託弥が座っている膝の上に向かい合わせに乗って、奴の頭をきゅっと抱いた。
「そんなツラしてんの見てたら欲情すんだろ。」
ふふっと託弥が笑う。その頬にちゅっとキスした。それからまた抱きしめると、ちょうど奴の耳元に唇が触れた。
「…抱けよ。俺のこと。」
託弥は一瞬びくっと身体を固くして、でも次にはすぐ俺をきつく抱きしめた。
あれから何日経ったんだろう。
俺と託弥は、閉めきった部屋でお互いを食い尽くそうとしていた。
託弥がほしがるだけ与え、俺もむさぼった。
今までの時間を埋めようともがくように。
「ひばり…」
甘い声。しなやかで吸い付くような肌。柔らかい唇。細い指先。
終わりのない睦事。身体が芯からしびれるような。こんなセックス、誰ともしたことなかった。
託弥が愛おしくて、抱き合うほど胸の中が満たされていく。
「ひばり…すきだ…」
何度も託弥が耳元でささやく。
違うよ、託弥。夢中になってるのは俺の方だ。
もう、何があっても絶対に離さないからな。覚悟しろ。
「なあ、今日って何日?」
少し…眠ってたみたいだ。託弥の声にふと我に返った。
「…んん?携帯…」
枕元に置いたままになっていた携帯を開いて、俺はギョッとした。
「不在着信…78件…」
「ええ?!」
託弥も一緒にのぞき込む。履歴はすべて『天照ゆりか』。姫だ。思わず託弥と顔を見合わせる。
「今、夜中の1時だけど、かけた方がいいんかな?」
託弥が神妙な顔でうなずいた。着歴から電話すると、1コール終わらないうちに姫がでた。
「如月っ。アンタなんで電話に出ないのよう!!」
でけぇ声だな…
「ああ、わりいな。気付かなくて…」
「あれから丸2日、そこから動いてないみたいね。」
…ああ、GPS…面倒くせえ文明の利器…
「水無月も一緒で…まあ、何してたのなんて野暮なことは訊かないけどね。」
この女っ。全部バレてる。顔が熱くなった。
「今からアンタたちを迎えに行きます。15分後にホテルの従業員出入口の方にいて。」
また俺たちは顔を見合わせた。
「どういうことだよ?」
「今後のことについてね、ふたりに話しておくことがある。渡すものもね。」
姫は、キッカリ15分後よ?早くても遅くてもダメ!と運送会社みたいなことを言って、でも最後に少し声を落として、
「如月、アンタの大事な水無月を狙ってる奴がいるってこと、忘れないでよ。」
と釘を刺した。
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