■ 4_December -the intermission 1 ■
(1)
「結局、1ヶ月仕事なかったな。」
ひばりがぷかーっと煙草をふかしながら言った。
「こないだ振り込まれてたふたり分の報酬…いいのかな、アレ。」
姫に渡されてた経費と生活費のクレカを返却して、そのあとに用意されてた報酬用の口座。残高照会したら、ふたり分の報酬として7桁の金額が入金されていた。
「だって、次いつ仕事あるのかも分かんねえんだし…いいんじゃない。」
俺は支給品のノーパソでフリーセルをしながら応えた。
「テメーも飽きねえなぁ。そんなにゲームって面白いの。」
「面白いってわけじゃないけど、他にやることないし。」
テレビも面白くないし、ぷらぷら出歩くこともできないし…そうこうしてるうちに、あと1週間でクリスマスだ。
「なあ、クリスマスプレゼントに何かほしいものってある?」
何気なく訊いただけだったのに、ひばりはかなりびっくりしたらしく、げほげほと煙にむせた。
「クリスマスプレゼント…って、テメー…」
うわ、赤くなってる。
ひばりは喫ってた煙草の火を消すと、
「ガキみてぇなこと言ってんなよ…」
俺はノーパソをぱたん、と閉じて、ひばりの座ってるソファの隣に座った。
「だって一応…恋人なんだし…」
言ってしまってから、急に自分が恥ずかしくなってきた。顔が熱い。
「いいよ、もう。」
ひばりはちょっと呆れた顔になったけど、ニッと笑って、
「そーいうの、スキなんだな?」
と、俺の髪をくしゃくしゃとかき回した。
「バカにしてんだな。」
ぷいっとそっぽを向いた俺を、ひばりは後ろから抱きしめると、耳元で
「可愛いって言ってんだよ。」
と言った。…全身が熱くなる。そのままひばりは耳元で喋り続ける。
「じゃあ、俺も何か見っけて買ってくる。あと、ケーキとか食う?」
きっと、俺、今顔が真っ赤になってんだろうな。
「…うん。」
でもやっぱり嬉しくて、思わずニヤけてしまった。
ひばりにプレゼントって…あいつ、何をもらったら喜ぶだろう?
多分、いちばんは食べ物なんだけど(びっくりするくらいよく食うし)、何か残るものをあげたいしな。うーん…案外難しいな…。
俺は、ひばりが出掛けたすきに、ネットの通販サイトをあちこち探してみた。でも、コレっていうものが見付けられず、だんだん焦ってきた。
ライター…はすぐなくすし、名刺入れ…は姫からもらった高価いやつ使ってるし、財布とかキーケース…はそもそもあいつそんなの使わないし…。
「ただいまぁー。」
ふいにドアが開いて、ひばりが帰ってきた。
「おかえり…」
慌ててノーパソを閉じる。
ひばりはスーパーの袋をカウンターの上にどかっと置くと、買ってきたものを冷蔵庫に入れ始めた。
「今さぁ、ちょうどスーパーでプレゼントによさそうな見っけたから、一緒に買ってきた。」
え?スーパーで??
「クリスマスまでのお楽しみぃ〜。」
ひばりはそう言って、スーパーの小さな紙袋をクローゼットにしまった。手のひらに乗るくらいの大きさで、ちょっと重そうな…何だ?
っていうか、スーパーの紙袋…やっぱりひばりにイベントごとのロマンチックさを求めるのは無理があるよな。そういうとこ…すきだけどさ。
クリスマスイヴまであと2日。
結局ネットでは見付けられず、俺も店に出掛けてみることにした。ずっと引きこもってたから、気分転換も兼ねて。
でも、ひばりは、こっちが引くくらい心配して、
「絶対、人通りの少ない道とか店とか行くんじゃねえぞ。エレベーターにも乗るなよ。」
と、しつこく言ってきた。
「ホントは俺も一緒に行けばいいんだけど。」
「いや、ふたりでつるんで歩いてちゃダメだろ、俺たち。」
それに、何を買うかひばりに内緒にしときたい。
「すぐ帰ってくるから。」
ひばりは俺の顔をじいっと見ると、両腕を掴んで自分の方に引き寄せて、ちゅっとキスした。
「早く帰ってこいよ。待ってる。」
「…分かってる。」
俺はコートを引っ掛けて部屋を出た。
駅前の大きなデパート。エスカレーターで4階まで。雑貨売場を見に行ってみた。インテリア用品とかキッチン用品とか。
そういえば、姫のとこで仕事始めてからずっとホテル暮らしで、自分で料理作ってないよな。タクシー会社の社宅に住んでたときは毎日のように自分で作ってたのに。
ひばりにも何か作って食わせてやりたいな。あいつ、すごい食べるから、毎食おかずをたくさん作って。作りがいがありそうだよな。うまいって言ってくれるかな。…なんて、新婚さんかよっ。
ぼんやり考えてたら食器売場に出た。そこで、ぽってりとした形のマグカップを見付けた。白と黒の市松模様で、なんかすごく目をひいて…俺はそのカップを持ってレジに向かった。
「ただいま…」
部屋に戻ると、ひばりはいなかった。
「なんだよ…待ってるって言ってたのに。」
俺は、買ってきたカップの、包装してもらった箱をクローゼットに隠して、コートもハンガーに掛けた。
ひばり…何て言うかな。あいつのことだから、牛乳あっためて飲んだりするかも。両手でカップを挟んで持って。その姿を想像して、なんかほっこりした。
そのとき。
う゛う゛う゛う゛…
ズボンのポケットに入れていた携帯が震えた。姫からだ。慌てて電話に出る。
「水無月です。」
「今どこ?」
「部屋に…」
「如月は?」
矢継ぎ早にたたみかけてくる。
「今ちょっと出掛けてて…」
「まあいいわ。すぐパソコン開いて。」
「仕事…ですか?」
「他に、あたしがアンタに何の用事があるって言うのよ。」
あーもう、キツい言い方するよな、このひと…
「ハイ。大丈夫です。」
俺は、ソファの前のテーブルに置いてあるノーパソを開いた。パソコンの時計は、午後2時ちょうどだった。
「ウチのネットワークに誰か侵入ったみたい。足跡探して。」
随分焦ってるみたいだな。
「今、クリスマス商戦終盤ギリギリで社内も手薄なのよ。そこを狙われたみたい。」
「…分かりました。」
俺は携帯を置いてテーブルの前に座り込むと、作業に集中した。
部屋の灯りがぱっと点いて、俺ははっとした。
ひばりが目の前に立ってる。いつの間にか窓の外は暗い。
「仕事?」
ひばりは俺を見下ろして言った。
「ああ。姫から電話があって…」
言いながらも俺はノーパソの画面を見ていた。
「飯は?」
「ああ、ゴメン。こっち集中してやっちゃうから、先に食ってて。」
俺が言うと、ひばりは無言でルームサービスのメニューを見ると、内線で何か注文していた。そのまま、やっぱり無言でベッドの端に腰を下ろして煙草を喫ってる。
ほどなく食事が運ばれてきた。この匂いはシチューだな…。カウンターの上に皿を置く音が聞こえてくる。
「なあ、ひと休みして飯食えば?」
ひばりが声を掛けてきた。
「後でいいよ。ひばり、先に食ってて。」
「冷めるからさ。」
「仕方ないよ。後で食うから。」
「託弥。」
気が付くと、ひばりは俺のすぐ横に立って見下ろしていた。
「同じ部屋にいるのに、ひとりで飯食うとかイヤなんだよ。」
俺はびっくりして、ひばりを見上げた。
「さっきも、仕事に集中してるからって、俺が帰ってきたことに気付きもしなかったじゃねえか。」
…一体、何を言い出したんだ?
「仕方ねえだろ。こっちだって急いで終らせてえんだよ。」
「そんなの…俺、手伝いたくてもできねえし…」
まさか、こいつすねてんの?思わずポカーンとひばりを見返す。ひばりは、ちょっと顔を赤くして、ぷいっとカウンターの方に戻ると、冷蔵庫からビールを出してきて、ぐいぐい呑みはじめた。
「おまえはちゃんと飯食っとけよ?」
「…うるせえよ。」
完全に俺に背を向けて、ただ呑み続けてる。
…なんなんだ、これは。すごく気になるけど、でも今は目の前の仕事を片付けなくては。
俺は目の前の画面にまた集中した。
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