■ 7_May -the 4th mission ■ (2)
姫のとこに行ってから3日めの昼過ぎ。仕事のメールが来た。
求人サイトのアドレスが入っている。その、求人が出ている店に、俺とサツキで潜入するらしい。
早速、託弥のノーパソで見てみて、俺たちは顔を見合わせた。
『美少年倶楽部・百花』
…うをーい!なんだよ、美少年倶楽部って!!
『お客さまのお話し相手をしていただくお仕事です。』
「これって…ホスト?」
託弥が呆然としたまま言った。俺はその場で姫に電話を入れた。
「はい?」
いつもどおり、1コールで電話口に出た姫は、しれっとした様子で言った。
「俺だけど。」
「如月?何?」
「何じゃねえよ。」
俺はパソコンの画面を見ながら姫に言った。
「何だよこれ、美少年倶楽部ってっ。」
姫はすました声で
「そのまんまなんだけど。」
と言った。
「俺、26なんだけど。少年って歳でもねえし。」
「バカねえ!!」
姫は呆れたような声を出した。
「ホントの少年って歳の子が呑み屋で働けるわけないじゃない。」
「つまり、ホストクラブってことなのかよ。」
俺が確認すると、姫は、
「ホストクラブの一種ではあるけど、客層は主に大人の男なのよ。」
と、こともなげに言った。
「そこの客ってね、結構中堅企業の役付きが多いみたいなのよね。いろんな話が拾えると思うの。」
俺が黙っていると、姫はさらに、
「大丈夫よう、如月。アンタの見た目なら一発採用だから。」
「ふざけんなよ、テメー…」
「皐月と一緒に面接に行ってきなさい。今日中に。」
姫のペースで話は進む。
「まずは採用にならなきゃね。そしたらとりあえず店の様子とか把握して、どうするかを決めましょう。」
言うだけ言うと、姫は、夕方6時に皐月をこっちに向かわせるから、と言って電話を切った。
…ったく、なんなんだよ。俺は携帯をテーブルの上に放り投げた。
「どういうこと?」
託弥が不安そうな顔で俺を見る。俺は姫に言われたとおりのことを説明した。
「そういう店って…俺、分からないんだけど、」
託弥はうつむいて、言葉を選ぶように言った。
「その…客の酒の相手して、話し相手になるだけ?」
ああ、その心配してるのか。俺は託弥の肩をとんとんっとたたいた。
「そうだよ。それ以上、何するって言うんだよ。」
託弥はうつむいたまま、ちょっと顔を赤くした。
「大丈夫だよ。」
託弥に笑いかけながら、でも内心では、どんな店だか行ってみなきゃ分かんねえけどな、とは思っていた。
夕方6時。ホテルの外に出ていくと、サツキが歩道のガードレールに寄り掛かってぼーっとしながら俺を待っていた。…なんかコイツって、キツそうな顔の雰囲気が姫に似てるんだよな。
「待たせた?」
俺が言うと、サツキはぱっと顔を上げて、
「いえ、全然っす。」
と、にぱっと笑った。お、いいじゃん。
「ホラ、そうやって愛想よく笑ってりゃいーんだよ。」
俺はサツキの背中をぱしぱしたたきながら言った。
「黙ってうつむいてるとキツそーに見えんだろ?」
サツキは意外そうに俺を見た。
「如月さんって…面倒見いいんですね。」
そして、何だか急にキラキラした目で俺を見て、
「如月先輩って呼んでもいっすか?」
と、人懐こく笑い掛けた。
店は、俺たちのホテルから歩いてすぐのところにあった。キャバクラやホストクラブが数件入ったビルの3階。採用面接は、店のマスターがしてくれた。
「ふたりとも、明日からでも来れる?」
そんなに人手不足なのかよ。
「ウチの店では、従業員の源氏名を花の名前で統一してるんだけど、何にする?」
「じゃあ、俺は鈴蘭で。」
俺は即答した。毒のある花、鈴蘭。一応、俺に似合ってるんじゃねえ?
「えっと…俺は…」
サツキはもごもご口ごもった。花の名前なんて、コイツ知らねえか。
「じゃあ、椿はどう?椿姫の椿。」
マスターはそう言ったけど…椿って散るとき、首からぼろっともげるんだよな…
「ハイ。それで。」
サツキはほっとしたように言って笑った。俺も微笑ってみせたけど、これは明らかに苦笑だ。
鈴蘭と椿かよ…なんか、深読みすると縁起でもねえって感じだけどな。
「さて、それじゃ、店の中をちょっと見て行ってね。」
微妙にオネエ口調のマスターに連れられて、店の中を見て回る。
客席はボックス席が3つに個室が3つ。奥に厨房と従業員の待機室と更衣室。出入口近くにはカウンターがあってレジが置いてある。
「こっちの部屋で待機してもらってて、お客さまの受付が済んだらホールに出てきてもらうようになります。」
「従業員は何人いるんですか。」
一応訊いてみる。
「接客はあと3人います。あとはウェイターがふたりと私ね。」
全部で6人か。こじんまりしてるけど、まあ、俺たちの仕事にとっては悪くない。あまり人数が多いとやりづらいしな。
「客前に出るときはスーツ着用です。こちらで用意しますから。」
マスターは丁寧に言うと、
「明日、夜9時に。待ってます。」
と、笑い掛けてきた。
帰り、サツキは寄るところがあると言って、店の外で別れた。
俺はまっすぐ部屋に戻る。多分、託弥が心配してる。
「ただいま。」
「おう、お帰り。」
託弥はテーブルにノーパソを開いて、何か見ていた。
「何見てんだよ。」
画面をのぞき込むと、建物の設計図みたいのが映っていた。
「何これ?」
「おまえたちが働く店の図面。ちょっと拾ってきた。」
…いつも思うんだけど、託弥のパソコンってホント不思議箱だよな。
「集音機とか仕掛ける場所、考えないとな。」
画面を見ながら託弥が言った。俺は、ここが待機室、とか、ここは仕切ってあって個室になってて、とか、指さしながら託弥に教えた。託弥は、ここにコンセントがあるからー、とかぶつぶつ言いながら、何か考えてるみたいだった。
その横顔を見てると…やっぱしコイツ、男前だよな。フツウにかっこいいんだけど。なんだかドキドキして直視できないや。
「で?店の感じとかどうなんだよ?」
託弥はパソコンの電源を切ると、ぱたっと画面を閉じた。
「あ?ああ…別に普通の呑み屋って感じだったよ。マスターはオネエっぽかったけど。」
「…」
まだちょっと心配してるみたいだな。俺は託弥の髪をくしゃくしゃっとかき回して、
「大丈夫だって。」
と笑ってみせた。
「明日の夜から出るから。遅くなるから、先に寝ててもいいよ。」
託弥はじっと俺を見て、
「遅くなっても待ってる。」
と言うと、きゅっと俺の手を握って、
「気を付けてな。」
とつぶやいた。