■ 7_May -the 4th mission ■ (5)


 会社の建物まで、歩いて15分足らず。
 ミナの後ろを尾けるように歩いていって、俺たちは会社に入った。人の出入りは多い。
 受付には若い女の社員がふたり。モデル系とアイドル系だな。ぬかりない。
 入口で待ってたミナと合流して、俺は以前の仕事でミナが作った偽名の名刺(名刺入れにたまたま残っていた)を受付嬢に出した。
「天照常務に、新製品についておたずねがあると言われまして…」
「お待ちください。」
 モデル系の方が内線を取る。名刺の名前を告げて何か話していたが、
「オフィスは14階になります。どうぞ。」
と、通してくれた。でもエレベーターホールは目の前だし…
「その前に、手洗いをお借りしたいんですが。」
「お手洗いはこちらの奥になります。」
 俺たちは指された奥の空間に入り込んだ。その先に、地下に通じる階段がある。
「やっぱりキサラはすげえな…。」
 階段を下りながら、ミナが感心したように言う。
「俺、あんなスラスラその場で喋れねえし。」
「あんなの、大したことじゃねえ。」
 俺はわざとそっけなく言った。ミナはそんな俺を見て、小さく微笑った。

 会議室にはもうサツキが待っていた。
「水無月さん、お久しぶりです。」
 長机にパイプ椅子。サツキはミナを見て、椅子から立ち上がった。
「…うん。」
 ミナはあまり関心ない感じで、机の上にかばんから出したノーパソを広げて電源を入れた。そのまま、画面を見ながら何かカチャカチャ打ち込んでる。
 俺はサツキの隣の椅子に座って、ミナの様子を見ていた。
「これだけど。」
 ミナが画面を俺たちの方に向けた。こないだも見てた、店の図面が映ってる。ミナは赤のボールペンで画面を指しながら言った。
「更衣室のロッカーの横にコンセントがあるだろ、そこにこの携帯の充電器を挿しといてほしいんだよ。」
 スーツの内ポケットから充電器を取り出して、机の上に置く。
「アダプターの部分に集音機が仕込んであるから。」
「でも挿しっぱにしてたら、マスターとかに何か言われるんじゃないすか。」
 サツキが首をかしげた。
「キサラ、何か言い訳できるだろ?」
 ミナが俺をじっと見る。
「分かった。何とか言っとく。」
 俺がうなずくと、ミナは嬉しそうに笑った。
「従業員同士の話の中にもネタがありそうだから。」
「それをテメーがどこかで受信すんだな?」
「それは俺の仕事だからさ。」
 まあ、この手のことはいつものことだし、ミナにとっては朝飯前だよな。
「とりあえずそんなとこかな。あと、おまえたちにも集音機を持ってもらうから。」
 ミナはかばんからボールペンを2本出して、また机の上に置いた。
「これ、集音機が仕込んである。できればスーツの胸ポケットに挿しといてほしいんだけど、ダメなら内ポケットでも大丈夫だから。」
「水無月さんって…すごいっすね…」
 サツキが感心したような声で言った。
「別に。」
 ミナはぶっきらぼうに言って、
「じゃ、俺、先に帰るから。」
と、椅子から立ち上がった。えっ…ひとりで帰るのかよ…
「ふたりは店での立ち回りとか話し合っとくんだろ。」
 でもその瞬間、サツキも一緒に椅子から立ち上がった。
「水無月さん、ちょっと待ってください。」
「…え?」
 ミナは不意を突かれて固まってる。
「仕事のことじゃなくて…ちょっと話があるんすけど。」
 サツキも緊張してる声だ。って、なんだ?いきなり。
「水無月さんって、如月先輩のことすきですよね?」
 !!なんだコイツ、何を言い出したんだ…ミナはポカーンとした顔で、サツキを見たまま動けないでいる。
「おい、サツキ、何を…」
「如月先輩は黙っててください。」
 なんで俺が部外者扱いなんだよっ。
「水無月さんって、如月先輩と話すときだけ表情が違うっすよ。いつもは無表情なのに、如月先輩にだけは感情がこもってるんっすよ。」
 いや、コイツ、結構感情の起伏激しいぞ。って、サツキ、ろくにコイツと会ったこともねえじゃねえか…
「でも、諦めてください。」
 サツキはいやにキッパリと、
「如月先輩、彼女がいるんすよ。」
と言った。
「…は?彼女…?」
 ミナはやっと口を開くと、ぜんまい仕掛けの人形のようにぎこちなく首を回して俺を見た。
「おい、サツキ、いいかげんにしろよ。」
 俺も思わず立ち上がって、サツキをにらみつけた。
 サツキは一瞬ひるんだ顔になったけど、キッと口を結ぶと、さっきより早口で喋り出した。
「だって、のちのちギクシャクしたら仕事にも支障が出るじゃないっすか!早めにハッキリさせといた方が如月先輩のためでもあるんすから!」
 そして、ミナにまっすぐ向かうと、
「如月先輩、言ってたんすよ。先輩のことをいちばん理解して傍にいてくれる人だって。なんかいろいろ問題はあるみたいなんすけど、相手がどうこうじゃなくて、先輩自身が相手のことマジで惚れてるから、絶対別れないって。」
と、一気にまくしたてた。
 ミナはびっくりしたみたいに目を見開いて、ただサツキの言うことを聞いていた。
「だから、水無月さんは、如月先輩のこと、諦めてください。」
 サツキは、言ってやった!ってドヤ顔でミナを見ていた。
「…あ、ああ…そう、なんだ…」
 ミナはやっとそれだけ言って、俺を見つめ続けてる。目が潤んできた。ヤバい、泣かせちまう。
「おう、サツキ、テメー余計なことべらべら喋ってんじゃねえぞ。」
 それから、ミナにも向き直って、
「テメーももう行け。」
と静かに言った。
「ああ…そうだな…」
 ミナはふらふらした足取りでドアに向かうと、そのまま部屋を出て行った。
「これで大丈夫ですよ、如月先輩。」
 サツキがにぱっと笑う。なんだコイツ…何をしだすか読めなくて怖えよ!
 俺はなんだかどっと疲れて、椅子にどかっと腰を下ろした。

「…ただいま?」
 ホテルの部屋に戻ると、託弥はスーツのまま、ソファの上で膝を抱えていた。
「ああ、おかえり。」
 託弥はちらっと俺を見て、また目を伏せてしまった。…ったく…しょうがねえなぁ…
 俺は上着を脱いでベッドに放ると、託弥の足元にしゃがんだ。
「…あのさ、さっきサツキが言ってたことだけど。」
「あれって…俺のこと?…だと思っていいんだよな?」
 ぼうっとした目で俺を見てる。
「当たり前だろ。他に誰がいるんだよ。」
「サツキに…話したのか。」
「相手がテメーだとは言ってねえけどな。」
「そりゃそうだろうな。」
 言いながら目を伏せる。…ああ、もうっ。ドキドキしてキレそうだ。
「何だよ、言いたいことあるなら言えよ。」
 俺はソファに上って、託弥の隣でしゃがみ込んだ。
「俺の気持ちは昨夜…今朝か、言ったとおりだから。」
「俺だってっ、」
 急に託弥ががばっと顔を上げた。真っ赤になって、真剣な目で。
「俺だって、ひばりのことマジで惚れてるし、絶対離れねえから…っ。」
「バカ。なに張り合ってんだよ。」
 俺は託弥の頭をなでながら言った。こういうとこ、可愛くて仕方ないんだよなあ。
 俺…ホントにろくでもない男だけど、どうしても、どうしても託弥だけは離したくない。


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