■ 7_May -the 4th mission ■ (6)


 夜9時。俺とサツキは店にいた。託弥に言われたとおり、ボールペンは胸ポケットに挿して、充電器はコンセントに。その先にはちゃんと携帯をつないで、テーブルの上に置いておいた。
「鈴蘭、店で充電すんなよ。」
 先輩の藍に注意されたけど、
「すいません、俺の携帯、電池弱くてすぐ切れんですよ。実家の父が入院してるんで、連絡来るかもしれなくて…」
と、やり過ごした。またサツキが感心したように俺を見てる。もうそれはいいからっ。
「さあ、開店ですよー。今日もよろしくねー。」
 マスターがみんなに声を掛ける。と同時に、接客の従業員は待機室に移動して、客が来るのを待つことになる。
「如月先輩。」
 歩きながら、サツキが俺に耳打ちした。
「水無月さんはどこで聞いてるんすかね。」
「ああ、この先の公園にいるって言ってた。あまり長くいて不審がられるようならあちこち移動して、どこまで電波が入るか調べるって。気を付けろって言っといたけどな。」
 俺もぼそぼそっと、でも早口で応えた。
「それ、いつ水無月さんに聞いたんすか?」
 サツキが不思議そうに訊いてきた。
「え?さっき…」
 言い掛けて、俺はハッとした。サツキは俺たちが一緒に住んでること知らねえんじゃん…
「連絡取り合ってるんすか。仲いいんすね。」
 ちょっと鼻白んだ感じで、サツキは言った。
「業務連絡だろ。」
 それだけ言うと、俺はサツキの背中をばしんとたたいた。
「それより、今日はちゃんと客につけるようにな。」
「そんなの、客次第っすよ。」
 サツキはつまらなそうに唇をとがらせて言った。やっぱしコイツ、ガキだよなぁ…俺に懐いてくるのは別にいいけど、もうちょっと考えた言動してほしいよ…


 それからはほぼ毎日、夜、店に出た。夜中3時に店がはけて帰ると、託弥はパソコンの前で何かカチャカチャやってる。それが終わるのを待って、明け方に寝る。
 昼過ぎに起きて、ふたりで飯食って。夕方まで託弥はまたパソコンで何か打ってるし、俺は買出しに行ったりして、夜7時過ぎに飯。で、9時には俺は店。
 …こんな生活パターン、本当に何年ぶりだ?身体の調子が狂う。
 大体…託弥がだんだん無口になってきた。
「おい、大丈夫か?」
 ずっとパソコンの画面を見てる託弥の顔が青白い。
「顔色悪いぜ。」
「いや…モニターの光のせいだろ。大丈夫だよ。」
 なんでもないように言うけど、明らかにおかしい。
 早くこの仕事終わんねえかな。姫の奴、どのくらい続けるつもりなんだろ…
 ものすごい速さでキーをたたいてる託弥の横顔を、俺はただぼんやりと見続けていた。


 結局、一月近く勤めて、5月の末に俺とサツキは店を辞めた。
 収穫は、ホースクの営業所長のほか、ネタになりそうな奴ら4〜5人に接触できたことくらいだったけど。託弥が夜ひとりで外に出ても大丈夫そうだって分かったのはよかったし、もう、俺自身が限界だった。
 サツキとふたりして店を辞めたいとマスターに話したとき、
「せめて鈴蘭くんだけでも…」
と引き止められたけど、
「実家に戻らなくてはならなくなって…」
と、また口から出任せでやり過ごした。
 サツキは、
「如月先輩はホントに喋るのが上手で…」
と、しきりと感心してたけど、こんなの…そんな立派なもんじゃねえし。逆に、俺にとっては、心底どうでもいいことなんだ、と、やっぱり実感した。


 店を辞めた翌日の夜10時過ぎ。俺は姫のオフィスにいた。託弥が毎日まとめてた報告書と、店で集めた名刺やなんかを姫に渡すために。
 俺を一目見て、姫はちょっと困ったような顔になった。
「なんだよ。何か文句でもあんのかよ。」
 俺がにらむと、姫はデスクに肘をついたまま小さい声で言った。
「ごめん。こないだのは失言でした。」
「は?何の話だよ。」
「水無月のせいでアンタが失業したって言ったこと…」
 ああ、コイツ、一応気にしてたんだな。
「正直言って、アンタのことなんてあたしには分かんないわよ。何考えてるのかとか…でもね。」
 俺をまっすぐ見上げて、姫は言った。
「アンタが水無月を大切にしてることは知ってる。だから…」
「もういいよ。」
 俺はぷるぷると頭を振った。
「俺だってテメーの考えてることなんか分かんねえよ。俺たちをどうするつもりなのかもな。」
 すると姫はじっと俺を見て、
「でもアンタは、自分たちがどうなりたいのかが、自分で分かっちゃったみたいね。」
と静かに言った。





the 4th mission was completed;

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