■ 9_August -the last mission ■ (3)


 店から歩いて数分のところに、朽ちかけた倉庫があった。
「以前はこの隣の会社の倉庫だったんだけど。」
 重浦はズボンのポケットから鍵を出して、ドアに付いている南京錠を開けた。窓は全部、板が打ち付けてあって、外から中の様子を見ることはできない。
「社長がさ、不幸な事故に巻き込まれてさ。」
「…アンタが仕組んだんだな。」
「人聞きの悪いこと言うなよ。」
 ふふっと笑うその声。聞き慣れた、胸糞悪い笑い声。
 ドアを開けた倉庫の中はがらーんとしていて、裸電球がひとつぶら下がってるだけだった。
「ホラ、そこにちゃんといんだろ。」
 電球の灯りがぎりぎり届く倉庫のすみっこに、裸に剥かれて、手首を後ろ手に、足首もテープでぐるぐるに巻かれた託弥が、こっちに背を向けて転がされていた。背中は一面、みみずばれで真っ赤になっている。
 重浦の声に気付いて、託弥はこっちに顔を向けた。瞬間、びっくりしたみたいに目を見開いて、かすれた声を上げた。
「ひば…」
「喋んな。」
 俺は託弥を制した。あまり喋らせない方がいい。
「ちゃんと生きてんだろ。」
 重浦は面白そうに俺を見て言った。
「…テメー…!!」
 俺は重浦に掴みかかりそうになるのを必死でこらえて、にらみつけた。
「そんなおっかねえツラすんなよ。」
 重浦は俺の顎を掴んだ。
「6年ぶりのカンドーの再会なのに。」
 そのまま無理矢理唇を重ねてきた。反射的に、俺は重浦をつきとばした。託弥が目を見開いて、俺と重浦を見ている。
「つれないことすんなよ、亮。」
 重浦はぎらぎらした目で俺の肩を掴むと、後ろから抱きしめてきた。
「やめろ…っ。」
 身体を離そうとする俺を押さえつけると、重浦は言った。
「こういうことだって、全部俺が教えてやったのに。」
「そんなの、俺を利用するためにだろ。」
 俺は腕をばたばたさせて、重浦の腕の中から逃げようとした。
「そりゃ、お互いさま、ってヤツじゃねえの。」
 重浦は力ずくで俺を床に押し倒すと、ズボンのベルトを外そうとしている。
「やめろって!!」
 俺は膝で重浦の腹を蹴った。重浦は一瞬ひるんだけど、次の瞬間、俺の頬を思いっきりはりとばした。
「ホラ、こうされんのすきだろ。」
 下半身を全部脱がされて、重浦は俺のモノを舐めはじめた。
 こんなの、託弥に見られたくない。ちらっと見ると、託弥は身体をよじって、完全に俺たちに背を向けていた。
 むかしも、こんなだった。
 中学を卒業してから、、俺は行くあてもなく、毎晩この街をぷらぷらしていた。そんなとき、暴力団の関係者だった重浦に拾われた。
 重浦はすぐ俺に、男をたらしこむ手管を教えた。毎晩重浦に抱かれて、俺は男と寝ることを覚えた。
 初めのうちは売春(ウリ)だった。美人局(つつもたせ)みたいなこともやらされた。そのうち、ベッドの中で相手の身の上話や仕事のことを聞いてきて、それを元にゆすりをさせられるようになった。
 最初は俺も何も考えてなかった。重浦の言うとおりに動いた。でも何年かするうち、自分が重浦に利用されてるだけなんだってことがハッキリ分かってきた。多分、数年後には使い捨てられることも。
 20歳の年、俺は身一つで重浦の元から逃げ出した。やっぱり行くあてなんかない。でも、ここにはもういたくなかった。
 2年くらい、別の街でその日暮らしの生活をしていた。でも…やっぱり、俺にできることは、自分の身体を使って金を稼ぐことだけだった…。
「相変わらず素直じゃねえなあ。」
 俺の身体をもてあそんで、重浦は不意に俺の腰を掴んで身体をひっくり返した。そのままいきなり後ろに突っ込んでくる。さっきまで舐められてたから、重なった部分からくちくち音がする。俺は歯を食いしばった。目の前がちかちかする。身体は反応してしまう。でも絶対に声はもらさない。託弥に聞かれたくない。
 重浦は激しく突き立ててくると、俺の中で果てた。床に奴の放ったものがぼたぼたたれた。
「亮、おまえ、やっぱりいいよ。あんな奴に独り占めさせとくの、もったいねえな。」
 息を弾ませたまま、重浦はそう言って、俺の脇腹を蹴り飛ばした。

 そのまま俺は裸に剥かれると、やっぱり手足をテープで巻かれて、託弥と同じように転がされた。重浦は何も言わず、倉庫を出て行くと外からドアに鍵を掛けた。足音が遠ざかる。完全に気配が離れたのを感じて、俺は身体を芋虫みたいによじって、託弥の近くまで寄った。託弥は泣きはらしたみたいな目で俺を見た。
「大丈夫か。」
 俺は託弥に声を掛けた。
「おまえの方こそ…」
 託弥も身体をよじりながら、俺の方を向いた。
「こんなの、なんともねえ。」
 俺は壁に寄りかかりながら上半身を起こした。託弥は起き上がることはできないみたいで、床に転がったまま俺を見上げている。
「…あいつ…ひばりの知り合いだったのか。」
「…むかしのな。」
 託弥は視線を落として、何も言えなくなっちまってる。
「だから言っただろ。俺なんか、薄汚ねえゲス野郎なんだって。」
 知られたくなかった。自分でだって、思い出したくなかった。でも、今の俺は過去の俺の積み重ねだから、こうなっちまったのはどうしようもない。うつむいている俺に、
「ひばりは、ひばりだ。」
 託弥はつぶやくように、でもハッキリした声で言った。床から俺を見上げて、
「ひばりはいつだって、俺のだいすきなひばりなんだよ。」
と微笑った。
「ずっと、ひばりのこと考えてた。今度こそホントにもう一生会えないんじゃないかって思ってた。」
「そんなわけねえだろ。」
 俺は託弥の頭のすぐそばまで寄って、身体を倒して託弥の額にキスした。
「ここからずらかるぞ。今すぐ。」
「どうやって…?」
「まずは手と足を外さなきゃな。おい、こっちに腕出せるか。」
 託弥は後ろ向きになって、俺の方に腕を見せた。
「粘着テープで巻いてあるだけだ。噛み切るから、そのままじっとしてろ。痛くても我慢しろよ。」
 俺が言うと、託弥はうなずいた。俺はそのまま託弥の腕に顔を寄せた。

「今ごろ、あいつ、姫に電話してんのかな。」
 託弥がつぶやいた。
 手首に巻かれた粘着テープ。その巻き終わりの継ぎ目を歯でこすって、そこからテープを噛み切る。切れ目を入れれば、引っ張れば引きちぎれるはず。俺は犬歯でテープにかじりついて、何度も引っ張った。ときどき歯が託弥の手首に当たって傷を作った。
「痛え?ごめんな。」
 俺は傷になったところを舌先で舐めた。
「ホラ、猫とか、動物って怪我したとこ舐めて治すっていうから。」
「大丈夫…」
 託弥の背中が震えてる。
「痛くて泣いちゃった?」
「違うから!!」
 身体を起こしてみると、託弥の身体が反応していた。
「…さっきからっ、ひばりの息とか髪とか唇とかっ、背中に当たってたから…っ。」
「…いいから、別に。そんな焦らなくても。」
 俺は託弥の背中をぺろっと舐めた。
「俺だって…早く託弥に触りたくてたまらねえ。」
 早く、早く手を解いて、託弥を抱きしめたい。ぎゅうっと抱いてほしい。
 おれはまたテープを噛み切るのに専念した。

 どのくらいそうしていたのか…テープの幅の3分の1くらいの切れ目ができた。
「手首捻るみたいにして引っ張ってみて。」
 俺が言うと、託弥はテープを捻りながら腕を開いた。左手がテープから外れた。託弥はすぐ右手にくっついたままのテープを放り投げると、
「ひばり、こっちに腕っ!」
と、俺の手首のテープをぐるぐる解いた。足のテープも外すと、自分の足のテープも解いた。
「やっと…触れる…」
 託弥は俺をぎゅうっと抱きしめた。俺も託弥の背中に腕を回す。傷だらけで、ぼこぼこになってる。
「痛かっただろ、大丈夫か?」
 背中をさすると、託弥は小さく首を振った。
「あとで…ゆっくり可愛がってやるからな。」
 俺が言うと、託弥は俺の肩に顔を埋めてしまった。


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