■ NIGHT WAVE ■ (1)
その部屋は妙に明るく、そして妙な活気に満ちていた。
キングサイズのベッドの両脇には台にセットされた照明がそれぞれ2台、足元には椅子に座ったディレクターが小難しい顔でモニターを覗き込んでいる。
隣の部屋でメイクを終えた女優がおずおずとベッドの縁に腰を下ろした。まだ撮影に慣れていない、緊張した面持ちだ。バスローブの前をきっちり閉めて、ベルトの紐も固く結んでいる。
そこに、場違いなほど脳天気な声が響く。
「おっはよーございまーす!」
へらへらと笑いながら部屋に入って来た男は、素肌に下着1枚、肩にバスローブを引っ掛けただけの姿だった。さらさらの黒髪に張りのあるさっぱりとした肌合い、いわゆる細マッチョな体型に、陽気な雰囲気をまとっている。
男はまっすぐディレクターの前に進むと、さらに重ねて笑顔を見せた。
「また呼んでいただいてありがとうございます。よろしくお願いしまーす。」
「うん、十夜(とおや)、よろしくね。」
ディレクターは小さく右手を挙げた。
「愁斗(シュート)は?まだ入ってねぇの?」
十夜、と呼ばれた男が部屋を見回す。
「奥の部屋でスタンバってるよ。」
ディレクターは、さっき十夜が通ってきたのとは逆の部屋を指して言った。
「ふーん。どんなパンツ穿いてた?」
「知らね。」
素っ気なく言ったディレクターは、スタッフに撮影の指示を出すために席を立ってしまった。十夜は小さく肩をすくめ、ベッドに腰を下ろしてスタッフと話している女優に目をやった。
「おはようございます♪」
女優は、ハッとしたように十夜を見上げる。
「…おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
伏し目がちにうつむいた女優に、十夜はにこやかに、
「ハイ。お願いされます。」
と会釈した。そして、
「俺と愁斗に任せとけばいいからね。メイクも、ちょっとくらい汗とかで濡れても大丈夫だから。」
自分の頬をぺちぺち叩きながら笑いかけた。
そこに、奥の部屋からもうひとりの男が出てきた。鍛えて引き締まった厚い胸、浅黒い肌に金髪に近いほど脱色した髪を立て、首にはネックレス。下着は黒のブーメラン。
「おー、愁斗、おはよう〜。」
十夜はひらひら手を振りながら、愁斗と呼んだ男に近付く。
「あっ、十夜さん、来てたんですか。おはようございます。」
愁斗は慌てて十夜に頭を下げた。
「うん、よろしくね。」
言いながら、十夜は愁斗を手招きする。そして、自分より体格の勝る愁斗の肩に腕を回すと、がっしりホールドした。
「なあ、あの女優、新人?」
愁斗にだけ聞こえる声量で十夜は訊いた。
「緊張してガッチガチじゃん。」
「んー、確か、今日が二回目とかって聞きましたけど…」
「あー、やっぱしかぁ。」
十夜はわずかに眉を寄せた。
「めんどくせえ。」
「仕方ないでしょ、誰にだってそういうときありますよ。」
「俺、全然?」
「男と女は違うって…」
愁斗が呆れた声を上げる。
「だってさ、AVの撮影なんて何すんのか分かってんだから、そこはホラ、プロ意識持ってもらわなきゃだろ。」
横目で愁斗を睨んで、十夜は言った。
「女優は主役なんだしさぁ。」
「でも二回目で3Pってのは予想外だったんじゃないすか。」
「3Pだろうが乱交だろうが女同士だろうがコスプレだろうが関係ねえだろ。そもそも、セックスしてるとこ撮られて売り出されんだから。」
まくし立てる十夜に、愁斗は小さく笑った。
「相変わらず身も蓋もないっすね、十夜さんは。」
「当たり前だろ、俺たちは名作劇場作ってんじゃねえんだよ。その場でパッと楽しんでパッと抜けて、後にはなんにも残んねえやつを、いい大人が手間暇かけて作ってんだよ。」
「多分、女はそんなふうには割り切れないんでしょ。」
愁斗は、所在なげにベッドに腰を下ろしている女優をちらっと振り返った。
「だ・か・ら・そーいうのがめんどくせえって言ってんの。愛とか夢とか、そんなもん要らねえんだよ、ここには。」
「とか言って十夜さん…」
また首だけ回して十夜に向き直った愁斗は、
「また、甘ったるいうまいこと言って女優をノセるんでしょ。」
とニヤッと笑った。
「だって俺、そーいう役回りだもん。」
当たり前のように言って、十夜は愁斗の背中をどんっとたたいた。
「段取りは?」
「おっけーです。」
うなづいた愁斗に、十夜も真剣な顔でうなづいた。
ディレクターの合図で、次のカットの撮影が始まった。
ベッドヘッドに寄り掛かるように、下着姿の女優を中心にして、右に十夜、左に愁斗が座っている。
一応、決まっている台本としては、街頭でスカウトしてきた素人女性を男ふたりで相手をする、というストーリーになっているが、実際の演技は演者のアドリブとディレクターのその都度の指示によるものになる。
女優のブラジャーのストラップを指先でなぞりながら、十夜はちらっとディレクターを見た。小さくうなづき返されたのを見て、十夜の『暖機運転』が始まる。
「この下着、可愛いね。」
十夜は女優の耳元に息を吹き掛けながらささやいた。
「こういうの、すきなの?」
すきも何も、下着は衣装で、女優の私物ではないのだけど。それでも女優は小さくうなづいた。
「でも、脱がせちゃうよ?」
言いながら、ストラップを肩から落とし、むき出しの肩からうなじにかけて口唇を這わせる。
それを見て、示し会わせたように愁斗はブラジャーの上から女優の胸に触れた。
「…大きい…」
下から揉み上げるようにした胸は、谷間でたわんだ。愁斗は、女優本人にも分かるようにそこをじっと見ている。女優の口元がほんの少し緩んだ。それを見逃さず、愁斗はブラジャーの胸元から手を差し込み、胸をあらわにさせる。
その間、十夜は女優の腿をさすっていた。そして脚を割って下着越しに性器を指先でこする。瞬間、女優がピリッと緊張を増したのが気配で分かった。
「大丈夫。」
十夜は小さくささやいた。
「濡れなくてもジェルとかあるから。あんたはただ感じてるメスの顔してて。」
マイクに拾われないよう、十夜は女優の耳元で早口に言った。
「あとは俺たちがうまくやるから。」
女優はちらっと十夜を見ると、知らず入っていた身体の力を抜いた。
愁斗は胸を揉みしだきながら女優と口唇を合わせる。女優の顔が愁斗に合わせて上向いた間に、十夜は下着をすべて取り去り、女優を全裸にした。そして今度は女優の背後に回り、後ろから抱えるように胸元に手を回した。愁斗は素早く女優の脚の間に身体を入れ、クンニを始める。
喘ぎ声を漏らし始めた女優に、
「上手だよ。」
と言いながら、十夜は自分の勃起した性器を女優の腰に押し当てた。
「ほら、俺、硬くなってんの、分かる?やらしい声聞いてたら勃っちゃった。」
女優は一瞬顔を歪めたが、
「だって、こんなやらしい身体して、可愛い声出して、セックスの気持ちよさ知ってるんでしょ。」
十夜の言葉に、また喘ぎ声を上げた。
「すごい濡れてる。クリも勃ってる。」
愁斗も言いながら、女優の性器を指で押し広げた。また女優が声を上げる。
「ねぇ、もう挿れていい?愁斗、我慢できないって。」
十夜が言うと、女優は小さくうなづいた。