■ Fallin' Night ■
「寒い…」
あたしは彼の腕の中にいた。
川の流れる音がしていた。川を左手に、右手には芝生。枯れた芝の公園だ。そして、そこから土手がなだらかな膨らみになって伸びている。土手の中腹には、ペンキの剥げたベンチがふたつ並んでいた。
あたしと彼は、芝生と川原の間にコンクリートを敷いて作った小路に、川に向かって腰を下ろしていた。
寒かった。彼の両脚を割ってその間に膝を立てて座っていたあたしは、身体を斜めにして彼の腕の中に潜り込んだ。強く抱きしめられて、あたしは目を閉じた。彼の息が耳にかかる。
しばらくそうしていて、あたしは頭を起こした。彼はあたしを抱く手を緩めた。あたしは彼の手を取った。あたしの手よりずっと冷たかった。その手を胸に抱きしめて、あたしは彼を見た。彼はあたしの胸の上の自分の手を見ていた。あたしは彼から視線を離さずに手を持ち上げて、彼の指にキスした。彼は困ったような顔をしていたけど、ゆっくり指を解くとあたしの肩を抱き寄せた。その動きのままに、あたしはそっと目を閉じた。
「寒い?」
彼は訊く。
「ううん。寒い?」
「いや。」
彼は短くそう言って、あたしを抱いている腕にさらに力を込めた。あたしは、彼の肩越しに空を見た。半分だけ欠けた月が、ぼんやりと蒼く辺りを照らしていた。
そうしている間にも、川の流れる音がしているのを確認して、もう一度あたしは目を閉じた。