長 野 県 指 定 希 少 野 生 植 物  (解説2)

13.  ミズチドリ  Platanthera hologlottis Maxim.
                          ラン科

 北海道から九州まで。朝鮮半島、中国東北部、シベリア、千島列島に分布する。属名は葯隔が広い、種小名は完全な舌状の、いずれも花の形を表している。命名者のマキシモウイッチは1860年来日。4年間滞在し、須川長之助の協力を得て各地の植物調査を行った。牧野富太郎も同氏のもとへ留学を希望したが死去のため実現できなかったという。和名は水辺でチドリソウに似ているから水千鳥。花がにおうのでジャコウチドリの別名がある。
14.  ウラシマソウ  Arisaema thunbergii subsp.
  urashima  H.Ohashi et J.Murata サトイモ科

 北海道、本州、四国、九州に分布する日本固有種。属名は葉の斑点を指し、種小名はリンネの高弟で長崎出島の医者で来日、多くの日本植物を調査、研究したツュンベリーへの献名。亜種名はウラシマソウの略。命名者は東北大の大橋広好ほか。和名は附属体の先が長く糸状に伸びたようすを浦島太郎の釣り糸に見立てたもの。地下の球茎は多数の子球をつけるので、幼い個体がまわりに多く生えている。

15.  ササユリ  Lilium japonicum  Thunb.
                          ユリ科

 本州の中部地方より西、四国、九州に分布する日本固有種。学名の命名者はツュンベリー。和名は葉がササに似ていることから笹百合。花は白からピンク色がかり、白色花には水島正美によってシロバナササユリ forma album の名がある。古くから日本文学や美術品に登場してきた。草丈の高い草原や林縁部、疎林の中に生えるが採掘されて減っている。信州では中、南部と北部の一部で確認されるが、花はなかなか見られない。別名は早い季節に咲くとか、5月の皐月に咲くので早百合(サユリ)と呼ばれる。かつて信濃産にヒメサユリが記録されていたがササユリの誤記だろうとされる。ヒメユリは別の種類をいう。
16.  ヤマユリ  Lilium auratum  Lindl.  ユリ科

 近畿から東北地方に分布する日本固有種。国内産の野生のユリではもっとも大きな花が咲き、においも強く、鱗茎は食用にされて昔から栽培されてきた。明治、大正時代にはヨーロッパで園芸用に歓迎されたという。年々と減少し、本来の自生地がわからなくなってきた。ユリの属名は白い花を指すラテン語の古名だという。種小名は黄金色の。和名は山百合で、別名に叡山百合、鳳来寺百合、吉野百合などがある。寺院の精進料理にも関わっていたのだろうか。

17.  ヒメカイウ  Calla palustris  L.  サトイモ科

 本州の中北部に点々と生え、北海道から北半球に広く分布する1属1種。信州では3箇所だけが知られている。属名の語源は美しいに由来し、種小名は沼地生のという意味。園芸種のカラー(オランダカイウ)によく似て、小形なので和名に姫がついている。ミズザゼン、ミズイモの別名がある。
18.  トキソウ  Pogonia japonica  Rchb. f.
                         ラン科

 北海道から九州、種小名に日本のとあるが千島列島、朝鮮半島、中国北部にも分布している。属名は唇弁にひげ状の突起が多いことによる。和名はトキ色の花が咲くので朱鷺草だという。日当たりのよい貧養な湿原に生え、よく似たヤマトキソウの花はほとんど開かない。

19.  クマガイソウ  Cypripedium japonicum 
                  Thunb.     ラン科

 北海道の西南部から本州、四国、九州に生育し、種小名が日本とあるが朝鮮半島、中国にも分布する。和名は熊谷草。丸く膨らんだ唇弁を昔の武士が背負った母衣(ほろ)に見立て、力強い本種を熊谷直実(なおざね)、優しい感じのアツモリソウを平敦盛に当てたことはよく知られている。かつては、長野市郊外の雑木林にも生えていた身近な植物だが、すっかりまぼろしとなってしまった。属名は女神ビーナスとスリッパが語源で、花の形から前部が膨らんだ女性用のスリッパ、英名がlady 's slipper とついている。
20. キバナノアツモリソウ Cypripedium guttatum     var. yatabeanum (Makino) Pfitzer  ラン科

 本州の中部地方以北、男鹿半島、北海道から北太平洋地域に分布する。花は黄褐色で紫褐色の斑紋があり、種小名ともなっている。国内ではフオッサマグナ地帯に多く、1903年に田中貢一が戸隠山で発見した。牧野富太郎が矢田部良吉への献名で学名をつけて新種としたが、後にフイッツアーが変種に組み替えた。母種は北海道から北米北西部、アジア東部、ヨーロッパ東部に分布するエゾノクマガイソウ(チョウセンクマガイソウ)と考えられている。黄色の花をつけるから黄花敦盛草。

21.  アツモリソウ  Cypripedium macranthum 
                   Sw.    ラン科

 本州中部以北で北海道、千島列島、カムチャッカ、アジア東部からヨーロッパ東部に広く分布する。レブンアツモリソウやホテイアツモリソウは変種とされる。しかし、アツモリソウの仲間は変異が多く、雑種もできやすいようだが分類研究はこれからだろう。種小名は大きな花の。
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22. ホテイラン Calypso bulbosa var. speciosa
           (Schltr.) Makino     ラン科

 本州の中部地方で、亜高山帯の針葉樹林にまれに生える日本固有種。変種名は美しい、華やかな。薄暗い樹林の中で可憐な花が茎の先に1個咲く。母種のヒメホテイランは、青森県や北海道にあるという。和名は布袋蘭で花の形が丸い腹のようだから。別名を釣舟蘭という。

23.  サワラン  Eleorchis japonica 
              (A.Gray) F. Maek.    ラン科

 本州の中部地方以北、北海道、千島列島にも分布する。ミズゴケ湿地に生え、和名も沢蘭。属名も沼地生のランを表している。命名者は東大の前川文夫。最初、霧ケ峰で発見され、後に尾瀬や立山などでも採られたキリガミネアサヒランは変種。別名のアサヒラン(旭蘭)は花を賞賛したもの。

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