長 野 県 指 定 希 少 野 生 植 物  (解説1)

1. オキナグサ  Pulsatilla  cernua 
    (Thunb. et Murray) C.K.Spreng  キンポウゲ科

 本州・四国・九州から中国、朝鮮半島(済州島)に分布する。草原に生えるが環境変化で激減し、危急種となっている。かつてはどこにも生えていて、ままごと遊びにもされたほど身近な草花だったが、まぼろしの植物となってしまった。
 種子は容易に芽生えて花をつけるので、地元の野生種からぜひ復活させたい。ただ、ロシアの極東にもよく似たものがあった。園芸種などとも雑ざらないよう注意が必要。
 学名の属名は花の形を鐘にたとえ、種小名は前かがみの花の形を表している。
2. ツクモグサ  Pulsatilla nipponica
        (Takeda) Ohwi       キンポウゲ科
 
 信州の八ヶ岳と白馬岳、飛んで北海道の高山だけに自生する日本固有種。信州の自然学に画期的な役割を果たしてきた「信濃博物学雑誌」3号(明治35年発行)によれば、『この年7月、城数馬氏によって八ヶ岳で採集され、牧野富太郎博士に見てもらったがはっきりしない。花は黄色、形は白頭翁(オキナグサ)の類で葉はコマクサ、全形はハクサンイチゲに似ている。ツクモ(九十九)草は同氏の祖父の名だけれど』として、『白頭翁に類するが故に、其の頭字の白を以って、百に一足らざるとなし』とある。種小名は日本の。高山植物へ戻る

3. シラネアオイ  Glaucidium palmatum 
         Siebold  et  Zucc.  シラネアオイ科
 
 中部地方以北の日本海側と北海道だけに自生する日本固有種。1科1属1種という特殊植物。属名は淡青緑色の。種小名は葉が掌状になるという意味。北アルプスでは槍ヶ岳が南限とされている。起源が古い植物で、深いブナ林に守られて今日に伝わってきた。安定した原生林の中では、近縁種を分化させる必要がなかったと考えられる。淡い4枚の紫色のがく片が目立ち、花弁はない。まれに白花品がある。種子からの栽培が容易になった。和名は日光の白根山に咲く葵のこと。 
             雪国の植物へ戻る

4. シナノコザクラ  Primula tosaensis var. 
     brachycarpa (H.Hara) Ohwi   サクラソウ科 

 関東西部と信州の南東部に特産する日本固有種。 石灰岩などの岩壁に生える。属名は最初にという意味で、この仲間の花は春早くに咲き出すから。種小名が土佐のとあるのは、母種がイワザクラで紀伊半島、四国、九州に分布している。変種名は短い果実で、母種との区別点ともなっている。和名は信濃小桜。学名命名者の原寛は別種イワザクラの品種とし、大井次三郎が変種に組み替えた。それ以前1918年に小泉源一は、信州南部からの採集品に新種として P.senanensis (信濃産の)の学名をつけている。

5. ヤマシャクヤク  Paeonia japonica 
     (Makino) Miyabe et Takeda  ボタン科

 関東、中部地方から西で四国、九州に自生し、種小名に日本とあるが朝鮮半島にも分布する。属名は根が薬用になるので、ギリシャ神話の医神 Paeonに由来している。北半球を主に1属に30種もあるという。シベリア東部にもよく似たシャクヤクがあった。命名者は北大にいた宮部金吾と高山植物を研究した武田久吉。牧野富太郎がベニバナヤマシャクヤクの変種としたものを独立種に組み変えた。
6. ベニバナヤマシャクヤク Paeonia obovata
                      Maxim.  ボタン科

 北海道、本州、四国、九州と朝鮮半島、中国北部、樺太にも分布するが数は少ない。種小名は倒卵形の意味で花弁の形を指したものだろう。ヤマシャクヤクとは単に花の色が違うだけでなく、柱頭が長く渦巻き状になるなどで別種に分類される。毛の有無、花弁の白色など変異があって、変種や品種に分けられている。ボタン科はこれまでキンポウゲ科に含まれていたが、クロンキストの分類では独立させている。

7. サクラソウ  Primula sieboldii  E. Morren
                      サクラソウ科

 北海道南部から本州、九州、朝鮮半島、中国東部、シベリア東部に分布する。山麓や田畑の土手、川岸などのやや湿気のある場所に生育している。かつては信州でも各地で見られたが、環境変化、掘り取りで激減してしまった。花の形や色にさまざまな変異があって、むかしから多数の園芸品種がつくられてきた。園芸店に並ぶ西洋桜草に対し日本桜草で愛好者が多い。「わがくには草も桜を咲きにけり」と詠んだ小林一茶のふるさとは、野生のサクラソウが各所にあったが、ここも残りわずかとなってしまった。種小名は、長崎出島の医者で日本植物を収集したシーボルトへの献名。
8. コマウスユキソウ Leontopodium shinanense
                  Kitam.    キク科

 中央アルプス(木曽山脈)だけに特産する日本固有種。「アルプスの星」と呼ばれるエーデルワイスの仲間で、花茎の高さ4〜10cm。日本に生育するウスユキソウ属ではもっとも小さいので、別名を姫薄雪草という。属名は、綿毛が密生した葉と頭花をライオンの足にたとえている。種小名は信濃産の。命名者はキク科の権威で京大にいた北村四郎。基準標本が木曽駒ケ岳産で駒薄雪草。東大の矢田部良吉が1880年に初めて採集した。

9. ハナノキ  Acer pycnanthum K. Koch.
                          カエデ科

 本州の岐阜、愛知、長野の三県にまたがって自生する日本固有種。やや湿りがかった沢地に生える。30mにもなる落葉高木で、太さ1.5mにも達し、飯田の南部では花火の筒にしたという。属名は切れ込んだ葉の形を表し、種小名は花が密生するという意味。北アメリカにもよく似たカエデがあり、牧野富太郎はその変種としたが、北米産はもっと葉が広く3中裂し、欠刻があるなどで日本産と区別している。
        天然記念物のハナノキ解説へ
10. ツキヌキソウ  Triosteum sinuatum Maxim.
                         スイカズラ科

 国内では信州の一部だけに自生する稀産植物。中国東北部、ウスリー、アムールなどに生じ、隔離分布し、著しい残存要素種と考えられている。杉本順一著「長野県植物総目録」によれば、文政年間より日本に栽植されて知られていたという。牧場周辺で見るから帰化したものではないかと疑問視されてきた。倉島賢次郎が1904年に信州で初めて採集している。種小名は深い波状の。命名者は日本植物の研究家でロシアのマキシモウイッチ。

11.  トガクシソウ  Ranzania japonica
           (T. Ito) T. Ito     メギ科

 信州北部から東北地方の多雪地帯で点状に分布する。深いブナ林に守られてきた起源の古い植物と考えられている。1属1種で日本の固有種。
            トガクシソウの解説へ
12.  ユウシュンラン  Cephalanthera erecta
       var. subaphylla Ohwi    ラン科

 北海道から九州に分布するが数少ない種類。はじめ宮部金吾と工藤祐舜によって新種と記載されたが、大井次三郎がギンランの変種に組み替えた。葉が退化して鱗片状、もしあっても小形で2cm以下。日本固有種。和名は発見者の工藤祐舜によるという(みねはや54号)

希少野生植物写真へ戻る      希少野生種(2)へ