雪 国 の お も な 植 物  (解説1)

1. オオバツツジ  Rhododendron nipponicum
                   Matsum.  ツツジ科

 秋田県から福井県の日本海側に分布する日本固有種。信州では最北部寄りの多雪地、深山にわずか自生する。日本海要素系の代表的な植物。属名は紅花をつける木という意味。命名者は早くから信州の植物を調査、研究した松村任三(じんぞう 1856-1928)。東大の矢田部良吉に学び、後に教授となって「日本植物名彙」を著している。フジアザミ・ノハラアザミ・モリアザミ・カニコウモリ・ワサビ・ユリワサビなど多くの命名がある。和名は大葉つつじ。
2. オクノフウリンウメモドキ  Ilex geniculata 
        var. glabla  Okuyama  モチノキ科

 フウリンウメモドキを母種(最近は基本種という)とし、葉の裏が無毛で変種とされる。北海道の西南部から東北、北陸地方に分布する。信州では北端の多雪地帯のみ自生。
 基本種は本州の東北地方南部から九州に生じる日本固有種。ウメモドキ(梅擬)に似た赤い果実が、風鈴のように長い柄の先に吊り下がり、和名もそのことを指している。属名は古いラテン名だという。種小名は膝のように曲がったという意味。マキシモウイッチが命名している。変種名は毛がない。命名者は奥山春季。
 
3. コシノカンアオイ  Asarum megacalyx
            F. Maek.   ウマノスズクサ科

 山形県から福井県の日本海側に分布する日本固有種。信州では北部多雪地帯だけに自生する。ブナ林など、林縁でも見られ、常緑でギフチョウの食草となっている。
 属名は花が半ば地中に埋もれて咲くという意味もあるという。種小名は花のがくが大形を表している。命名者はカンアオイの仲間を研究した東大の前川文夫。和名は越後を示す越の寒葵で、冬でも葉が枯れないアオイのこと。
4. エゾエンゴサク  Corydalis decumbens
          (Thunb.) Pers.   ケマンソウ科

 本州の中部地方北部から北海道に生え、東北アジアに分布する。基準標本はカムチャッカ産。信州では北部の多雪地帯で、生育地は限られている。苞葉の辺に切れ込みがなく、全縁でヤマエンゴサクと区別され、変種とされることもある。属名の語源は雲雀(ひばり)で、花の形が長い距をもつようすから。種小名は横臥したという意味。和名は北方に咲く蝦夷の延胡索(漢名)のこと。
 
5. エゾユズリハ  Daphniphyllum macropodum 
       subsp. humile Hurus.   ユズリハ科

 本州中部以北、北海道で日本海側の多雪地帯に生育する日本固有種。基本種のユズリハは暖温帯の常緑樹で、樹高4〜10mにも生長する。このエゾユズリハは多雪環境に適応し、高さ1m以下で雪の下に伏せて越冬している。それを学名の亜種名は低いと表している。属名は葉の形が月桂樹に似る、種小名は長い柄とか太い軸のという意味。
和名は蝦夷譲葉。ユズリハは新葉が出てから古い葉が落ちるので、子どもが成長して親が代を譲るめでたい縁起木だと庭木に植えられる。
6.  オニシオガマ  Pedicularis nipponica Makino
                     ゴマノハグサ科

 秋田から石川県の日本海側に分布する日本固有種で、典型的な日本海要素の植物。花が大形で目立つためか、信州では数がめっきり減ってきた。属名はシラミに由来し、この仲間を食べた家畜にシラミが多かったことによるのだという。種小名は日本産の。命名者は牧野富太郎。白花品種はシロバナオニシオガマ forma alba M. Mizush. et Yokouchide。基準標本は新潟県境の野々海湿原産。命名者は信州の植物研究家で多くの調査資料を残した横内斎と指導者の水島正美。牧野標本館に勤めた水島は信州を広く調べ、各地で指導した。大形となるから鬼塩竃。
  
7. チョウジギク  Arnica mallotopus
        (Franch. et Sav.) Makino  キク科

 四国の一部と、鳥取県以北の本州日本海側に分布する日本固有種。信州も北部のみに自生する。属名は子羊の意。種小名が長い軟毛をもつというように、頭状花だけ集まった柄に縮れた白毛が密生し、独特な花形から区別しやすい。これでもウサギギクの仲間で、両者の雑種が見つかっている。和名は、花のつき方が香料にするチョウジの花に似て丁字菊だという。別名は毛が多いことからかクマギク。 〈以下右へ続く〉
8. シラネアオイ

9. トガクシソウ(別名 トガクシショウマ)


 〈左から続く〉
 チョウジギクは、フランス人のサバチェ(1831-91)が来日して採集し、自国の国立自然史博物館のフランシェ(1834-1900)に送って両者の名でチョウジギク属としたが、後に牧野富太郎がウサギギク属へ組み替えた。

10. トキワイカリソウ  Epimedium sempervirens
           Nakai  et F.Maek.    メギ科

 本州の中部地方から西の日本海側に分布する日本固有種。信州では北部県境の多雪地帯にのみ自生し、花はすべて白い。属名は地名に由来するという。種小名が常緑のとあるように、根生葉が枯れないで冬を越し、開花や新葉が出るときも残っている。しかし、越冬葉を欠くものもあり、紅紫色のイカリソウとの交雑かピンクの混じる花もある。キバナイカリソウとの雑種でミチノクイカリソウが報告されているが、幻の植物で再発見されていない。和名は常盤イカリソウで、オオイカリソウの別名もある。
11. ナガハシスミレ  Viola rostrata var. japonica
   (W. Becker et H. Boissieu) Ohwi  スミレ科

 北海道の渡島半島から石川県の日本海側多雪地帯に自生し、飛んで北米東部のアパラチア山脈に分布しているという。信州では北の県境寄りに生育する。最深積雪1m以上の地域に生えるという説もある。代表的な日本海要素種。スミレの古名が viola で、そのまま属名になっている。種小名が口ばし状のというように距は長く、和名も長嘴スミレ。別名は天狗スミレ。花の色に変異が多く、品種に分けている。一度見たら忘れられないほど可憐なスミレである。

12. ユキツバキ  Camellia japonica var. 
          decumbens Sugim.   ツバキ科

 秋田県から滋賀県北部の日本海側、多雪地帯に分布する日本固有種。信州でも北端のみに自生する。分布範囲は最深積雪ほぼ1.5m以上で、この境界をユキツバキ線と呼ぶ。花が平開すること、おしべが元まで黄色、葉の網状の脈が目立ち葉柄に毛、鋸歯が鋭いなどで基本種のヤブツバキと区別できる。両者は別種か変種かの説がある。この変種名は横臥する意味で、ユキツバキの樹形をよく表している。命名者は信州の植物誌をまとめた静岡の杉本順一。八重咲きは発見地の野沢温泉でノザワツバキ、ユキ×ヤブをユキバタツバキという。  
属名は東亜の植物を採集したG.J.kamellの名に因む。
13. エゾアジサイ  Hydrangea serrata var.
    megacarpa (Ohwi) H.Ohba  アジサイ科

 北海道から本州の日本海寄り、九州に分布する。信州も多雪地帯に限られる。基本種のヤマアジサイに比べ、葉は大きく広い楕円形で鋸歯が鋭く、花序、装飾花、果実なども大形となる。ただ、両者の混生地はどちらかまぎらわしい個体もある。属名は果実の形を表し、種小名は鋸歯があることを意味し、変種名は大形の果実をいう。和名は蝦夷紫陽花で、飾り花は青色。

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