雪 国 の お も な 植 物 (解説2)
14. アカミノイヌツゲ Ilex sugerokii var. brevipedunculata (Maxim.) S. Y. Hu モチノキ科 本州の中部地方以北と北海道のおもに日本海側に分布する日本固有種。属名は古いラテン名。種小名は本草学者の水谷豊文への献名で、本名の助六が訛ったものだという。初めマキシモウイッチは基本種クロソヨゴ(別名ウシカバ)の品種として記載した。変種名は短い花柄のある。クロソヨゴは、山梨県以西の太平洋側、四国に分布している。信州の北、東部はアカミノイヌツゲだけだが、西南部は両者が自生する。果実はいずれも赤く熟し、柄の長さがアカミは1〜2cm、クロは2〜4cmくらい。 |
15. タヌキラン Carex podogyna Franch. et Sav. カヤツリグサ科 本州の中部地方以北、北海道西南部の多雪地帯に分布する日本固有種。信州では中部から北部にかけて自生する。属名は古いラテン名か。種小名は柄のある雌ずいのという意味。和名は、花穂をタヌキの尾に見立てたもの。6-7月ごろ、湿った岩上から尾を揺さぶるように垂れ下がっている。 |
16. タニウツギ Weigela hortensis (Siebold et Zucc.) K. Koch スイカズラ科 本州の中国地方以北、北海道西部の日本海側に分布する日本固有種。やや広く多雪地帯に生育するが、日本海要素の植物。信州でも北部ほど多く、中部の菅平ー聖山ー安房峠あたりが、南部に分布するニシキウツギとの境界とされる。属名はドイツの化学者 Weigel に因んでいる。種小名は庭園のという意味だが、ユキノシタ科のウツギ類とは異なるものの忌み花で嫌われる。和名は谷間に多いから。ときに白花品種のシロバナタニウツギ forma albiflora もある。 |
17.ムラサキヤシオツツジ Rhododendron albrechtii Maxim. ツツジ科 滋賀県以北、北海道に分布する日本固有種。日本海側に多く自生する。属名は紅い花が咲く木という意味。種小名は採集家の Albrechti への献名。和名は紫八染つつじで、紫色の染料で何回も染めたように鮮やかな花だという。ミツバツツジ類と同じで、葉より先に花が咲くので見栄えがある。花の色はミツバより赤みがかって濃い。ブナ林の主要な構成種のひとつ。別名をミヤマ(深山)ツツジという。 |
18. スミレサイシン Viola vaginata Maxim. スミレ科 北海道から近畿地方の日本海側の多雪地帯に分布する日本固有種。種小名は葉鞘、さやのあるという意味。葉に先立って花が咲き、大形で径 2-2.5cmもある。葉の形がウスバサイシンのようだから、和名はスミレ細辛。分布範囲が対応するように、太平洋側にナガバノスミレサイシンがあり、信州の木曽や伊那谷の南部に自生する。 フオッサマグナ地帯に生育するといわれるヒメスミレサイシン V. yazawana Makino は、長野師範学校の田中貢一、矢沢米三郎、岡田邦松が戸隠山で発見(1899)し、牧野富太郎が種小名に矢沢の名をつけている。 |
19. オオバキスミレ Viola brevistipulata (Franch. et Sav.) W. Becker スミレ科 北海道西南部から近畿地方の日本海側の多雪地帯に分布する日本固有種。最深積雪が1m以上の地域に自生するともいわれる。属名はスミレの古名を表す。種小名は短い托葉のあるという意味。和名は大葉黄スミレ。スミレは、花が墨つぼに似た形だからスミイレが語源だという。 この仲間はさまざまな変異があって、苗場山から岸田松若によって採集されたナエバキスミレ ver. kishidai Nakai は、やや小形で花や葉の柄が紅紫色となる。高山型のミヤマキスミレは区別が難しい品種だという。 |
20. ケナシヤブデマリ Viburnum tomentosum var. glabrum Koidz. ex Nakai スイカズラ科 本州の滋賀県以北で日本海側に分布する。ヤブデマリの無毛か毛が少ないタイプで、基準標本は戸隠山で採取されている。属名はラテン古名。種小名が密に毛があることに対し、変種名は脱毛の、毛がないを表している。命名者は、小泉源一が非公式に用いたものを中井猛之進が正規に記載した。 |
21. アズマシロカネソウ Dichocarpum nipponicum (Franch.) W.T. Wang et Hsiao キンポウゲ科 秋田県から福井県の日本海側に分布する。種小名のように日本固有種。信州では北部の多雪地の一部に限定される。属名は対の果実という意味。和名は東白銀草で、サンインシロカネソウが福井県より島根県に分布するので、それに対する東であり、白色花のシロカネソウ(別名ツルシロカネソウ)に似ていることによる。信州の同じ仲間は、ツルシロカネソウが南部、トウゴクサバノオは東部に、いずれもまれに自生する。属が異なるチチブシロカネソウは、東部から南部に分布する。 |
22. キヌガサソウ Paris japonica (Franch. et Sav.) Franch. ユリ科 本州の中部地方以北で、日本海側の多雪山岳に分布する日本固有種。属名は花被が同じ形を表し、ギリシャ神話の Paris の名に因むともいう。直径が6cmもある大形の花をつけ、ツクバネソウ属だが特異な形で、一度見ると忘れられない植物である。和名のキヌガサ(衣笠)は、むかしの貴人が外出の際に後ろから差しかけた長い柄の傘をいい、輪状の葉をたとえたもの。 |
23.ユキグニミツバツツジ Rhododendron lagopus var. niphophilum T. Yamaz. ツツジ科 秋田県南部から鳥取県東部の日本海側に分布する日本固有種。信州では北部から中部の西寄りに自生する。他の地域はトウゴクミツバツツジ R. wadanum が多い。 葉柄の毛がトウゴク(東国)は白色で密生、ユキグニ(雪国)は淡褐色でやや密に生えている。命名者は東大植物園の山崎敬(たかし)。 |
24. オクチョウジザクラ Prunus apetala var. pilosa (Koidz.) Wilson バラ科 秋田県から日本海側を滋賀県まで。日本固有種。属名はスモモのラテン古名。チョウジザクラが基本種で種小名は花弁のないとあるが、花びらの落ちた標本を見て誤解してつけられた学名だという。変種名も軟毛があるという意味だが、花柄やがく筒に毛が少ないものを変種としている。和名は奥丁字桜だろう。 |