矮性の低木と雪田に咲く 高 山 の 植 物 (1)  (解説1)

1.  アオノツガザクラ   Phyllodoce aleutica 
            (Spreng) A. Heller   ツツジ科

 本州の中部地方以北と北海道の高山、サハリン、千島、カムチャッカ、アリューシャン、アラスカなどの北太平洋地域に分布する。属名は海の女神の名だという。種小名はアリューシャンのという意味。雪渓の縁や雪田周辺に大きな群落をつくる。ツガザクラやエゾノツガザクラと混生すると、さまざまな雑種ができることが知られている。和名は葉が常緑でツガ(栂)、花はサクラに見立てて青栂桜。
2. イワウメ  Diapensia lapponica ssp. obovata
        (F. Schimdt.) Hulten   イワウメ科

 本州の中部地方以北、北海道の高山帯、東北アジア、北米にも分布する。属名はリンネがセリ科の古名をつけたのだという。種小名はラップランドの。北半球の寒地に広く分布し、葉が狭く披針形をしたホソバイワウメが基本種。それに対し、亜種名の obovata は倒卵形のという意味。岩場にビッシリとマット状に張り付いている。和名は岩場に咲く梅のようだから岩梅の名がある。


3.  イワヒゲ  Cassiope lycopodioides
             (Pall.) D. Don   ツツジ科

 本州の中部地方から北海道の高山、サハリン、千島、カムチャッカに分布する。属名のCassiope はギリシャ神話の女神の母親名。種小名はヒカゲノカズラ属に似ているという意味。岩場の割れ目などに生え、細いひも状で這う。小さな常緑でこれでも低木。和名は茎がひげ状なので岩髭と呼ぶ。
4. ウサギギク  Arnica unalashcensis var. 
  tschonoskyi (iljin) Kitam. et H.Hara  キク科

 本州の中部地方以北、北海道の高山帯、千島からアリューシャンに分布する。属名は子羊に由来。種小名はアリューシャン列島ウラナスカの。変種名はプラントハンターで有名な須川長之助への献名。基本種のエゾウサギギクは北海道に多い。根元から出た一対の長い葉をウサギの耳にたとえた兎菊。別名を舌状花と頭状花の形で金車という。  

5. ウラシマツツジ   Arctous alpina
            ( L .) Niedenzu   ツツジ科

 本州の中部地方以北で北海道、北半球の高山、寒地に広く分布する。属名は熊 arktos からきた名。種小名は高山生の。花は淡黄色で葉が開く前に開花する。花より紅葉で知られ、高山でもっとも早く真っ赤に染まる。和名のウラシマは、葉の裏の縞模様の網目から出た名前で、裏縞つつじだという。別名をクマコケモモといい、属名の直訳でコケモモに似た。
6. キバナシャクナゲ  Rhododendron aureum
                   Georgi    ツツジ科

 本州中部地方と北海道、北アジアに広く分布する。属名は紅花をつける木という意味。種小名は黄金色の。和名は黄花シャクナゲ(石楠花)。ハイマツの周辺に多く、雄しべが花弁に変化した八重咲きは、八ヶ岳の硫黄岳が最初の発見地として国指定(大正12年)の天然記念物。花色や形に変異があって多くの名前がある。アズマシャクナゲやハクサンシャクナゲとの雑種の報告もされている。

7. クロマメノキ  Vaccinium uliginosum  L .
                          ツツジ科

 本州中部地方以北、北海道から北半球の寒帯を中心に広く分布する。属名は古いラテン語(牝牛)に由来しているという説がある。種小名は湿地に生ずるという意味だが、高山帯の礫地で乾燥がかった場所に多く生育する。さらに小形化したものを変種にしてヒメクロマメノキ(別名コバノクロマメノキ)というが、連続していて区別は難しい。和名の漢字は黒豆木。果実が紫黒色に熟して、どこの国でもジャムやジュースに加工する。浅間山周辺ではアサマブドウ、白根山ではシラネブドウと呼んで人気があったが、採り過ぎて最近は採取が規制されている。
8. コメバツガザクラ  Arcterica nana
          (Maxim.) Makino    ツツジ科

 中国地方の大山、氷ノ山、紀伊半島の大峰山、と中部地方以北、北海道の亜高山、高山帯、千島、カムチャッカに分布する。1属1種で、属名は北方のエリカという意味。砂礫地や岩のすき間に生える小さな(nana)低木。サクラに似た花が咲き、葉はツガに似て細かなお米のようだから、和名を米葉栂桜と書く。 

9. チングルマ  Geum pentapetalum 
              (L .) Makino     バラ科

 本州の中部地方以北、北海道の高山に生え、雪が残る雪田周辺に群落をつくる。東北アジアからアリューシャンに分布し、基準標本はカムチャッカ産。花が終わると花柱が伸びて、オキナグサのように羽毛状の白毛となる。和名は稚児車で、種小名も5花弁が輪形となっていることによる。ダイコンソウ属で、属名は美味なとついている。
10.  ハクサンコザクラ  Primura cuneifolia var.
   hakusanensis (Franch.) Makino サクラソウ科

 北陸の白山から飯豊山までの日本海側の亜高山、高山帯の湿地に分布する日本固有種。信州では北部、北西部の多雪地帯の山岳に自生する。基本種はエゾコザクラで北海道以北に分布する。加賀白山で最初に知られたの白山小桜。別名をナンキンコザクラというが、遠来の珍品のようだとつけられた名で、南京とは関係がない。種小名は葉がくさび形で、変種名は白山を表す。属名は初めにという意味で、この仲間の花は春早くに咲き出すことによる。


11. ミネズオウ  Loiseleuria  procumbens
               (L .) Desv.    ツツジ科

 本州の中部地方から北海道の高山、北半球の北部に分布する。1属1種の矮生で、これでも低木。種小名も這いつくばるの意味。峰(高山)に咲くスオウ(牧野図鑑によればイチイのことで、葉が似ていることから)だという。カムチャッカに品種ベニバナミネズオウも咲いていた。属名は海の女神の名だという。命名者に L .とあるのは、二名法をつくり、植物分類学の父と呼ばれるリンネ(スエーデン)のこと。
12.  ミヤマキンバイ  Potentilla matsumurae
                Th. Wolf    バラ科

 本州の中部地方以北、北海道、千島、サハリンに分布する。変種に北海道特産のユウバリキンバイとアポイキンバイがある。属名は強力なという意味で、強い薬効に対してつけられた名だという。種小名は松村任三(じんぞう)への献名。和名は、光沢がある鮮黄色の5弁花が梅の花のようだと深山金梅。葉の形などに変化が多い。

13. ミヤマリンドウ  Gentiana nipponica Maxim.
                        リンドウ科

 本州の中部地方以北、北海道に分布する日本固有種。茎の基部が地について節から根を出し、群がって生える。青紫色の花が咲き、高嶺の星のようだといわれる。信州では八ヶ岳や南アルプスの生育が確認されず、雪の多い山岳だけに見られる。属名はイリーリアの王 Gentius (B.C. 500年ころ)に由来する。

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