風衝地と高山荒原に咲く 高 山 の 植 物 (2-1)  (解説2)

1.  イワオウギ  Hedysarum vicioides Turcz.
                         マメ科

 本州の中部地方以北、北海道、東北アジアに分布する。亜高山や高山帯の草地、砂礫地、岩壁などに生える。信州産のイワオウギ属は1種のみだが、この属は種子と種子の間に節がある節果をつける。種小名はスズメノエンドウ属に似たという意味。中国産の黄ぎの代用として薬用に使ったという。和名は岩黄ぎ。別名は立山黄ぎ。リンネがつけた属名で、ある植物のギリシャ名を当てたのだという。
2. イワギキョウ  Campanula lasiocarpa Cham.
                      キキョウ科

 本州の中部地方以北、北海道の高山帯で砂礫地、岩壁に生え、千島、サハリンからカムチャッカなど北太平洋地域、北米アラスカに広く分布する。花は青みが強く、花冠に毛がないことが特徴のひとつ。果実には毛があって、種小名は長い軟毛のある果実という意味。属名は花の形から小さな鐘。まれに品種シロバナイワギキョウが混じっている。和名は岩場に生える桔梗のこと。

3. ウルップソウ  Lagotis glauca Gaertn.
                   ゴマノハグサ科

 本州では白馬岳と八ヶ岳だけに隔離分布し、北海道の礼文島、千島、カムチャッカ、アリューシャン列島に生育する。種小名は淡い青緑色の花の色を表している。千島列島のウルップ島で初めて発見され(1819年)、和名となっている。白馬岳では河野齢蔵・岡田邦松、八ヶ岳は城数馬が最初に採集、記録した。古くはハマレンゲ(浜蓮華)の別名があり、北方の海辺の砂地に生えているためか。属名は葉の形がウサギの耳に似ているという意味。ウルップソウ科に独立させようという説もある。長野県絶滅危惧種
4.オヤマノエンドウ  Oxytropis japonica Maxim.
                          マメ科
 
 山形・福島・新潟県境の飯豊山地と中部山岳に分布する日本固有種。北アルプスなどの高山帯では風当りの激しい稜線斜面に生育し、このような環境こそ真の高山帯だと指標種にされる。和名は御山豌豆。1884年、矢田部良吉による木曽駒の採集品が基準標本となっている。北海道には変種のエゾオヤマノエンドウ、別種のレブンソウ、マシケゲンゲ、ヒダカゲンゲ、リシリゲンゲなど同属が多い。イワオウギ属に対し、節のない果実をつける。 

5. オンタデ   Pleuropteropyrum weyrichii var.
     alpinum (Maxim.) H. Gross   タデ科

 本州の中部地方以北と北海道の大雪山系に分布する日本固有種。長い属名は、肋に翼のある果実の形による。種小名は採集者のウエイリッチ(ロシア)への献名。変種名は高山生の。和名の御蓼は木曽の御岳に由来し、別名は岩場に生えるイワタデ、石川県の白山に生育するハクサンタデ、またミヤマイタドリの名もある。亜高山帯や高山帯の草地、崩壊地に太い丈夫な根を張っている。富士山の中腹より上の荒原に多く生え、よく知られている。葉の裏に白毛があるウラジロタデの変種にあたる。
6. キバナノコマノツメ  Viola biflora L .
                         スミレ科

 本州の中部地方から北海道、北半球の亜寒帯に広く分布する。四国や屋久島の高所にもわずか自生しているという。種小名は二花のという意味だが、1茎に1~3輪の花をつける。和名は葉の形が馬の蹄のようだと黄花駒爪。南アルプスから変種アカイシキバナノコマノツメ var.
akaishiensis (長野県絶滅危惧種)が、高橋秀男と大場達之によって記録されている。

7. クモマグサ  Saxifraga merkii var. idsuroei
(Franch. et Sav. ) Engl. ex Matsum. ユキノシタ科

 木曽の御岳を基準標本にして、北アルプスにわずか特産する日本固有種。属名は、尿の結石を溶かす作用があることを指す。変種名は伊藤圭介の子、伊藤謙(トガクシソウの最初の採集者)のことだという。和名は高山に生えることから雲間草と書く。本変種は茎の下から出る葉の先が3裂し、基本種のチシマクモマグサは3列しない。母種は北海道から東北アジアに広く分布し、カムチャッカでは山岳地帯の道路工事跡に径30cmもの塊(クッション状)で何株も生えていた。クモマグサは長野県絶滅危惧種
8. コマクサ Dicentra peregrina (Rudolphi)
                 Makino  ケマンソウ科

 本州の中部地方から北海道の高山帯砂礫地に生え、東北アジアに分布する。属名は2枚の花弁の距が突出していることによる。種小名は外来のという意味。帰化したものではないが、その場に見合わなかったのか。命名者は牧野富太郎が Rudolphi の分類を組み替えている。和名は花の形が馬の顔に似ることで駒草。古くから薬草にされ、御岳のオコマグサはよく知られている。保護活動の結果、各地で増えてきたが、本来生育していなかった山岳にも植えらえて問題化している。

9. シコタンソウ  Saxifraga bronchialis ssp.
      funstonii var. rebunshirensis  H. Hara  
                         ユキノシタ科

 本州の中部地方以北と北海道の亜高山、高山帯野岩礫地、岩のすき間などに生え、千島、サハリン、さらに基本種はシベリア、中国東部、カムチャッカにも分布する。
10. クモマスミレ Viola crassa var. alpicola
     (Hid. Takah.)  T. Shimizu   スミレ科

 本州の北アルプスと南アルプスに分布する日本固有種。エゾタカネスミレに近く、花柱に突起はないが、葉は無毛で光沢がある。種小名の crassa は厚いという意味。変種名は高山の。これまでタカネスミレとされていたものが、さまざまな変異があることで細分された。命名者は信州出身の高橋秀男がタカネスミレの亜種にしたものを、清水建美が変種に組み替えた。

11. タカネツメクサ  Minuartia  arctica  var.
         hondoensis Ohwi    ナデシコ科

 本州の飯豊山と中部地方に自生する日本固有種。高山礫地や風衝礫地に群生し、信州の山岳ではやや普通に見られる。属名は人名で、スペインの J. Minuartへの献名。種小名は北極のという意味で、基本種のエゾタカネツメクサは北海道からロシア極東、シベリア、ヨーロッパの周北極地域に分布する。変種名は本州産の。和名は生育地と葉の形から高嶺爪草。1880年に矢田部良吉が木曽駒ケ岳で見出している。

高山の植物写真(2)へ     見出しへ戻る      トップへ戻る