浮遊       


結婚したばかりのもう40年以上も前、イスラエルのキブツで映画を見た。

その映画はアニメで、透明な球体の中に膝を抱えた状態でひとりずつ入り、
宙に浮かんだ状態で暮らしていると言うもので、
浮いた状態でプカプカと浮か日、傍を通る他の人と何らかの方法でコミュニケーションを取っている、
というようなもので、あらすじは全く覚えてはいないが、
あの光景は非常に印象深く、帰国してからも度々思い出した。

軽井沢に移住後、スポンサーが現れ思いがけず自分の店を持つようになった私は、
あまりにも多くのことが起こるため気持ちの整理のために、「む」 という小冊子を作り、
お世話になっている固定のお客様たちにお渡ししていた。
商売のことなど何もわからない私にお客様たちは色々教えてくださり、
小さな娘達にお土産を持ってきてくださる方たちも多く、
その方たちへの報告の意味もあり、10年間続ける決意を忠実に守った。

 そして、「む」を終えたあと、
色々わかってきたので今度は「ゆう」というコーナーを作りまた記録を始めた。
しばらく文章を書くことをさぼっていたが、最近になってまた書くことを勧められた私。

 年月を重ね、今はイスラエルのアニメのように、
私は透明な球体の中で膝はかかえず自由奔放な姿で球体360度の方向に小さなアンテナを立て、
様々な方から情報を得ながらマイペースで暮らしているような気がしている。

 昔から他人と比べることは何もしなかったので、常に自分の価値基準で、
まあるいお婆さんになっていくよう努力を重ねている。

もちろん、私には雑念も多く、実に生々しい人間の感情をむきだしに、
汚らしくも美しく、矛盾に満ちた生活が現実である。




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