「屋根の上に花の咲いた家を見つけたよ。そこに住もうよ。」東京で、次女が生まれると
すぐにサラリーマンを止めてしまった主人は、アルバイトで出かけていた軽井沢から帰ると
私にそう言った。長かった髪を坊主頭にしての懇願に、私も同意した。
1才と2才の娘を連れ、お金も仕事も無い私達。萱葺き屋根の農家を借り、珍生活を始
める。昭和54年。「脱サラですか?」そうおっしゃるかたがたに私は言った。「いえ、脱都会
です。」 なぜって、主人はサラリーマンはたった2年。『脱』と言うほどの実績が無かったか
らだ。中野から四谷まで通った2年で主人はどんどん青白くやせていった。軽井沢に来た
のは、ほんのあこがれ。計画などなにもなかった。 |