軽井沢

 
 軽井沢百年祭が行われてから一年、役場の発表では、この地に訪れる方の数は順調に増
え続けているといいます。別荘も増え、店も増え、この増え増えずくめに喜んでいらっしゃる方
も多いのでしょうが、最近、この町がこのままの形で発展し続けてゆくことがよいのかどうか、
あちらこちらで不安の声が聞かれるようになりました。軽井沢が好き、とおっしゃる方ほど、そ
の声は強いのです。東京の土地高に影響を受けたようなこの発展の中で、今年の旧道の銀
座通りでは、長年続けてこられた地元の店が、数件やめられたそうです。さまざまな事情もあ
り、仕方が無かったのでしょうが、淋しい事でした。出張店の中には在庫整理の品物を山と
積み、考えられないような安価で勝負しておられるところもあります。軽井沢のイメージを大
切に・・・。などというのも実際にはなかなか難しいことばかりのようです。世の中の流れの
中、今のようにならざるを得なかったのかもしれません。「旧道はもう行く気になれなくて・・。」
そうおっしゃる方に、「横山町の問屋街より安いものがあるから。」 私も変な誘い方をしてし
まうようになりました。

 ある日、ここの銀ブラが大好きで、店の並びにも詳しい我が家の娘の後について、ぼんやり
と歩いておりました。ある店の前で立ち止まった娘が、私にそっと言いました。

 「ねえねえ、おかあさん、このお店ってかわいそうなんだよ。」十歳の子供に、店のいたみま
でわかるようになったのかと、成長ぶりを喜んでいると、すぐ続けて言いました。「だってね、
見て!ホラまた! いつも嘘そのもののヒマワリに本物のハチが来てるんだもん!」

 今年の軽井沢銀座は、ヒマワリが主役になりそうです。春に雑誌でもテレビでも「どこかの
町でヒマワリ大流行」 というのが取り上げられていたことを思い出しました。

                          1988年 夏

トップへ
トップへ
戻る
戻る